自己免疫疾患の発症には、遺伝的要因に加えウイルス感染等の環境要因が関与するが、そのメカニズムは不明な点が多い。自己免疫疾患との関連が疑われるパルボウイルスは、感染Tリンパ球にアポトーシスを誘導した後、ウイルスが排除された後も一部のTリンパ球がアポトーシス抵抗性を獲得すること、パルボウイルスがリンパ球の遺伝子にエピジェネティック修飾を起こす可能性を示唆されている。 本研究では、ウイルス因子による自己免疫疾患モデルの開発を目標に、パルボウイルス非構造タンパク(NS)がTリンパ球にDNAメチル化を誘導し、アポトーシス抵抗性や細胞増殖性等の形質変化を起こすことを明らかにし、in vivoにおいてNSの発現によりコラーゲン誘導性関節炎の発症率への影響を検討した。 ウイルスベクターによりNSを発現させたマウスTリンパ球は大半の細胞がアポトーシスにより死滅したが、生存細胞ではDNAメチル化の亢進によりBMPERの発現が抑制され、生存細胞はアポトーシス抵抗性を獲得することが明らかとなった。 また、NS発現ベクターをコラーゲン関節炎好発系であるDBA/1マウスリンパ球に感染させ、Tリンパ球サブセットをフローサイトメーターで検討したが、特定なサブセットでのアポトーシスは確認できなかった。NS発現ベクターを接種したDBA/1マウスにコラーゲン関節炎を誘導したが、その発症率は対照群との間に差が認められなかった。 パルボウイルスNSの発現により感染Tリンパ球にアポトーシスが誘導され、耐過したTリンパ球はアポトーシス抵抗性を獲得すること、感染Tリンパ球ではメチル化によりBMPERの発現が抑制されることを明らかにした。しかし、ウイルス感染後にアポトーシスを起こすリンパ球サブセットを特定することはできず、実験的自己免疫性関節炎モデルマウスの発症率を高めることもできなかった。
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