ヒトは、顕著な行動の個人差を不すことが知られている。このよりな行動多様性の主要な原因の一つは、遺伝的要因である。動物における行動多様性の遺伝的基盤を理解することを目的として、私たちは野生由来系統を用いた行動遺伝学を進めている。日本産野生マウス由来系統であるMSMと代表的な実験用系統であるC57BL/6(B6)の間には様々な行動形質で系統差がみられた。このような行動形質の系統差に関わる遺伝的要因を明らかにするために、MSM系統とC57BL/6系統から作出されたコンソミック系統を用いた遺伝学的解析を進めてきた。ほぼ全染色体をカバーするコンソミック系統セットを用いて、システマティックな行動形質の解析を行った結果、これまでに、オープンフィールド行動、社会行動、ホームケージ活動性などについて効率よく遺伝子座のマッピングを行ってきた。現在、これらの遺伝子座について、サブコンソミック系統を樹立することで、更に高精度の遺伝子座マッピングを進め、遺伝子同定に向けた解析を進めている。その中で、ホームケージ内での活動性に関して、更にサブコンソミック系統を用いた解析から、6番染色体の狭い領域に、最低でも4つの活動性に関わる遺伝子が存在することが明らかになった。更に、その領域内での候補遺伝子を解析した結果、候補遺伝子の発現量に有意な系統差が見られた。このような発現量調節の系統差が行動の違いに関与している可能性が示唆された。
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