研究課題
私たちは、動物における行動多様性の遺伝的基盤を理解することを目的として、野生由来系統を用いた行動遺伝学を進めている。日本産野生マウス由来系統であるMSMと代表的な実験用系統であるC57BL/6(B6)の間には様々な行動形質で系統差がみられた。このような行動形質の系統差に関わる遺伝的要因を明らかにするために、MSM系統とC57BL/6系統から作出されたコンソミック系統を用いた遺伝学的解析を進めてきた。ほぼ全染色体をカバーするコンソミック系統セットを用いて、システマティックな行動形質の解析を行った結果、これまでに、オープンフィールド行動、社会行動、ホームケージ活動性などについて効率よく遺伝子座のマッピングを行ってきた。現在、これらの遺伝子座について、サブコンソミック系統を樹立することで、更に高精度の遺伝子座マッピングを進め、遺伝子同定に向けた解析を進めてきた。平成23年度は、ホームケージ内での活動性に関して、更にサブコンソミック系統を用いた解析から、6番染色体の狭い領域に、最低でも4つの活動性に関わる遺伝子が存在することを示した。今年度は、さらに一つの遺伝子を候補から削減し、3つの候補遺伝子について研究を進めている。そのうち、一つの遺伝子では、脳において発現量の系統差が検出されている。これらの遺伝子には、アミノ酸の置換をもたらす多型は存在しないため、この一つの候補遺伝子の発現量の違いが活動量の違いをもたらしている可能性が高い。今後さらにその遺伝子の機能をノックアウトマウスなどを用いて解析してゆく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに研究で、候補遺伝子の絞り込みに成功し、発現量の有意な違いについても検出した。更にノックアウトマウスを用いた機能解析の準備も進めており、研究は期待以上の成果を収めつつある。
まずは、ノックアウトマウスを用いた機能解析に重点的に取り組む予定である。また、発現量の有意な違いをもたらす発現制御機構の系統差を明らかにすることも必要である。これらの研究を推進することで、発現制御メカニズムがどのように行動のような複雑な形質に関与しているか解明できると期待できる。
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Psychopharmacology
巻: (In press)
Behavior Genetics
巻: 41 ページ: 716-723
DOI: 10.1007/s10519-011-9464-3.
PLoS ONE
巻: 6
10.1371/journal.pone.0022093