研究概要 |
本研究では,「生後まもなく心筋細胞が細胞周期から逸脱して終末分化し,細胞分裂能を喪失する現象には,胎児における胎盤呼吸から新生児における空気呼吸への個体発生学的変化(fetal-neonatal transition,胎児-新生児遷移),それに伴う酸化ストレスが関与している」という独創的な仮説の立証を研究目的としている。具体的には,胎児-新生児遷移に伴った酸化ストレスに起因する活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)→p38 MAPK→Cx43発現(とくにミトコンドリア内膜)シグナル伝達系が閉じた正の伝達系,すなわち正帰還制御ループ(positive-feedback regulation loop)を形成することが,出生後における心筋細胞の終末分化に,極めて重要な役割を果たしているという独創的な仮説を計画年度内に立証する。本年度における研究成果は,以下のようにまとめられる。 (1)妊娠ラットにNACを投与した新生ラットの群(NAC^<+/->),NAC投与妊娠ラットから出産した新生児の腹腔内にNACを投与した群(NAC^<+/+>),対照ラットから生まれた新生児の腹腔内にNACを投与した群(NAC^<-/+>),対照ラットから生まれた対照新生児群(NAC^<-/->)の4群のラット心における遺伝子発現変化を解析した結果,NAC^<+/+>群のラット新生児は,他の群のラットと比較して,p38 MAPKやCx43の発現が有意に減少していることが明らかとなった。 (2)NAC投与妊娠ラットから出産した新生児の腹腔内にNACを投与した群(NAC^<+/+>)のラット新生児の心筋細胞は,他の群の新生児から単離した心筋細胞と比較して,有意に多核細胞の割合が減少しており,胎児-新生児遷移時における活性酸素種の除去によって,心筋細胞の分裂能が上昇している可能性を明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本研究課題で得られた知見を,如何に心筋再生医療に応用するか,その戦略に関して考え,それを実現するための具体的な実験計画を立てて,精力的に最終年度の研究を展開する予定である。
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