研究概要 |
血流に基づく流れ剪断応力が血管内皮細胞(ECs)に常に作用することにより細胞の機能を修飾している。以前、我々は剪断応力依存的に応答するカルシウム・シグナリングが細胞内脂質ラフトから惹起されることを報告したが、剪断応力による脂質ラフトの動態については明らかではない。本研究では、新疎水環境感受性の蛍光色素であるlaurdanと二光子レーザー顕微鏡を用いて、生細胞における脂質ラフトのライブイメージを取得した。更に、細胞膜に導入した蛍光指示薬であるDiIC_<18>(3)のfluorescence recovery after photobleaching (FRAP)法により、細胞膜の流動特性を測定し、流れ剪断応力に伴う細胞膜の相転移を検討した。HPAECsにおけるlaurdanのGP画像解析により、細胞膜の辺縁に顆粒状のGP値の高い領域が観察された。GP画像を取得した後、カベオラと脂質ラフトのそれぞれのマーカーであるcaveolin-1の発現部位とGP値の高い領域が一致した。細胞膜コレステロールを除去する為にMβCDで処理すると,GP値の高い領域が顕著に減少したことから、GP値の高い領域がコレステロールを多く含む脂質ラフト領域であると同定された。FRAP法により膜流動性を解析した所、脂質ラフト領域では細胞膜の流動性が低い結果となった。HPAECsに流れ剪断応力を負荷すると、細胞膜の特性がより親水性となり、脂質ラフトが下流の領域から減少し、脂質ラフト相から流動相に相転移する傾向が認められた。FRAP法により、ずり応力に伴う細胞膜の流動性の変化を解析した所、流動性が増大することが確認された。以上の結果から、流れ剪断応力が内皮細胞の脂質ラフトの分布を変化させるだけでなく、細胞膜の流動性にも影響を与えるなど、内皮細胞膜の相転移を引き起こすことが明らかとなった。
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