研究概要 |
分子集合体である人工赤血球「ヘモグロビン(Hb)小胞体」の特長は、その物性値を自在に調節できることにある。また新たな機能を粒子に付与することも可能である。本研究では、このテイラーメード人工赤血球を対象とし、生体内におけるガス反応を制御させることにより輸血では対応のできない医療技術に応用させることを目指している。平成22年度には、(1)テイラーメード人工赤血球を効率的に調製する新規手法の検討を行なった。また、微粒子分散流体としての生理学的な影響を検討するため、(2)ガス透過性細管内を流動させた際のガス反応の特徴の解明や、(3)血管内皮細胞に対するHb小胞体の影響をE-selectin,ICAM-1などの炎症性サイトカインおよび一酸化窒素合成酵素eNOsの発現量により評価を行った。特に(2)については、Hb溶液系に比較してHb小胞体は粒子径が大きく溶液粘度が高いことにより側方拡散が遅いため、結果としてNOの結合速度や酸素の放出速度を遅くし、血管活性の低減に寄与する可能性があることを明らかにした。また(3)については、静置条件だけではなく流動を負荷した状態で細胞を培養することにより、より生体内に近い条件での評価を行なった。硝子基板にヒト大動脈血管内皮細胞(HAEC)を播種・培養し、平行流動負荷装置を用いることにより、Hb小胞体流体の肌ECに対する影響を評価した。低Hb濃度においては、Hb小胞体でE-selectinの産生を低減しHbの毒性を低減し炎症を抑制し細胞に保護的に働いている可能性が示唆された。また、高Hb濃度でも、Hb小胞体が炎症を惹起せず細胞に保護的に働いている可能性が示唆された。
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