分子集合体である人工赤血球「ヘモグロビン(Hb)小胞体」の特長は、その物性値を自在に調節できることにある。また新たな機能を粒子に付与することも可能である。本研究では、このテイラーメード人工赤血球を対象とし、輸血では対応のできない医療技術に応用させることを目指す。具体的には、① リガンド(配位子: ガス状分子)として酸素のみならず、COを結合させたHb小胞体の効能と機序の実証、② 活性酸素種を消去させる機能を付与し、その効果の確認、また、③ 臓器灌流液、Tissue Engineeringに用いる酸素供給媒体とするため、溶液組成とレオロジーがコントロールされたHb小胞体のカクテルをデザインする。これらの研究を通して、人工赤血球を用いるガスバイオエンジニアリングを確立することを目的としている。 平成24年度は、臓器灌流液としての利用法について検討し、灌流後の再接着が可能であることが解った。また、これまで活性酸素を低減させる方法としてTyr-metHb系の疑カタラーゼ活性が有望視され、この条件を検討したものの、十分な効果が得られなかったので、平成24年度は引続き脂質膜を介した電子伝達系の構築を検討した。ラットモデルを使って詳細条件(電子伝達系溶液の溶解濃度、投与容量、タイミング)を調べ、酸素運搬機能の大幅な持続が可能となる条件を見出している。更に、酸化的ストレスに対する防御機構がラットとは異なり、ヒトにより近い動物種を用いて比較検討したところ、ラットで得られた結果と同等であり、臨床的にも可能であることが示唆された。この研究については、人工赤血球の機能向上に極めて重要であることから、平成25年度以降に新たな研究として更に発展的に検討をする予定である。
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