研究概要 |
樹状構造を有するグリセロール(ポリグリセロールデンドリマー:PGD)が生理活性タンパク質の構造安定性に及ぼす寄与を明らかにすることを目的とし、PGDによる水の運動性への影響とタンパク質の安定性との関連性について検討した。第一世代から第三世代までのPGDを既に確立された方法により合成・精製した。第一世代のPGD(PGDG1)について水の核磁気共鳴(NMR)スピン-格子(T1)緩和時間測定を行ったところ、20wt%まではT1値が大きくなったが、20wt%以上では小さくなる傾向が見られた。このことから、PGD-G1は20wt%以上となると水分子と結合した結合水が増加する可能性が示唆された。また、浸透圧計によって各水溶液の水の活量を算出したところ、PGD世代数の増大により水の活量が低下する傾向が見られたことから、PGDの水酸基密度の増大により、水分子との水素結合性が増大することが明らかとなった。PGDがタンパク質の熱力学的安定性に及ぼす影響を明らかにするため、比較的不安定なモデルタンパク質としてアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を選択し、PGDの世代数がADHの酵素活性に及ぼす影響を検討した。PGDG1,G2,G3、及びグリセロールをそれぞれ5wt%ずつ溶解させた緩衝液に、ADHを加え、60℃で2時間加熱しながら濁度変化を測定した。グリセロール存在下では濁度変化が見られなかったが、PGD存在下では世代数の増大に伴って濁度が上昇した。このことから、5wt%のPGD水溶液では、PGD表層の水酸基密度に応じてADHとの何らかの分子間相互作用が増大し、凝集体が生成したものと推察された。そこで凝集体を回収し、ADH活性を測定したところ、G2では約70%、G3では約50%の活性を保持したが、グリセロールを加えたものでは約10%しか活性が維持されなかった。以上より、PGD水溶液中ではADHの活性状態はG2存在下において最も保持されることが明らかとなり、これは水分子の運動性が比較的高い濃度条件であることが必要であるものと推察された。
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