研究課題/領域番号 |
22300165
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大谷 亨 神戸大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (10301201)
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キーワード | デンドリマー / 生理活性タンパク質 / 構造安定性 / 細胞増殖因子 / ホストーゲスト / 放出制御 / 血管内皮細胞 |
研究概要 |
本研究では、樹状構造を有するグリセロール(ポリグリセロールデンドリマー:PGD)が生理活性タンパク質の構造安定性に及ぼす寄与を明らかにし、構造安定化された細胞成長因子放出制御が可能な血管再生用マテリアルを創製することを目的としている。アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の超高感度示差走査カロリメトリー(DSC)測定からPGD存在下での熱安定性を評価した。1%PGD存在下における吸熱ピークからエンタルピー変化量を算出し、自由エネルギー変化(ΔG)を算出したところ、PGD世代数の増大によってΔG値が低下した。またADHの熱変性プロセスにおける変性中点を算出したところ、54.4℃から51.4℃へと低下した。これらの結果は、1%PGD存在下にてADHが変性していることを示しており、昨年度の円偏光二色性(CD)スペクトル測定結果によるADH二次構造変化と一致した。従って、PGD世代数の増大によってADHとの相互作用性が高くなり、ADHの熱処理時におけるADH活性が保持される(昨年度の結果)ことが示唆された。この結果を受け、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)含有緩衝溶液を70℃で1時間熱処理を行う前後のCDスペクトルを測定し、二次構造変化に与える影響についての考察を行ったところ、世代数3のPGD(PGD-G3)を添加したbFGF溶液において、熱処理1時間後のbFGFの二次構造変化が小さいという挙動が見られた。このことから、PGD-G3によりbFGFの二次構造の安定性は向上していることを明らかにした。 細胞成長因子の放出制御のためにはPGDと細胞成長因子の相互作用が支配的となる。bFGFは塩基性タンパク質であるため、その表層に存在するアルギニンとの相互作用が重要と考え、アルギニンとPGDとの相互作用を等温滴定型熱量(ITC)測定から評価した。L-アルギニン,L-リシン、L-ヒスチジンがPGD-G3と相互作用した。従って、PGD-G3との相互作用には塩基性部位が必要であり、これら塩基性部位に付加しているプロトンがPGD-G3内部のエーテル性酸素とファンデルワールス相互作用していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に示した「PGDの高密度水酸基の存在による水の運動性への影響とタンパク質の熱力学的安定性との関連性」に関してはデータが得られ、論文投稿準備中である。しかし、生理活性タンパク質を保持したゲル化については検討中であるため、次年度にさらに検討を進める必要がある。これらを総合すると、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
PGDが細胞増殖因子の活性を保持する効果があるかどうかを細胞培養実験から評価する。PGD存在下でbFGFを一定時間熱処理し、bFGFの活性を細胞増殖数から定量化することにより評価する。その上で、PGDのゲル化と細胞増殖因子の保持に関して検討を進める。ゲル化方法には、細胞増殖因子の保持も必要であるので、自己組織化可能な方法を検討するが、困難を要する場合は化学架橋によりゲル化し、その後細胞増殖因子を内包する方法を考える。最終的には血管内皮前駆細胞(Endothehial Progenitor Cell: EPC)の分化・増殖を評価する。
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