研究概要 |
本研究では、樹状構造を有するグリセロール(ポリグリセロールデンドリマー: PGD)が生理活性タンパク質の構造安定性に及ぼす寄与を明らかにし、構造安定化された細胞成長因子放出制御が可能な血管再生用マテリアルを創製することを目的としている。昨年度の成果により、塩基性タンパク質のひとつでもある成長因子の塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)がPGD存在下において熱安定性が向上したことを受け、塩基性アミノ酸残基がPGDと相互作用していることが安定性に寄与しているものと示唆された。そこで、塩基性アミノ酸であるL-アルギニンとL-リジンを含む種々のアミノ酸およびアミノ酸類似化合物とPGDとの等温滴定型熱量(ITC)測定を行った。その結果、L-アルギニン, L-リシン、L-ヒスチジンがPGD と相互作用し、α-アミノ基の存在しないL-アルギニン,及びL-リシン類似構造化合物では相互作用がみられなかった。従って、PGD との相互作用にはゲスト分子1 分子内に2つのアミノ基が必要であり、これらがPGD 内部のエーテル性酸素とファンデルワールス相互作用していることが示唆された。これら2つの塩基性部位とPGD との相互作用は、2次元1H-1H NOESY NMR 測定の結果からも支持された。以上のことから、PGDと塩基性アミノ酸残基との相互作用によってbFGFの熱安定性が保持されているものと示唆された。 一方、PGD架橋ゲルの調製方法について見当したところ、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いて架橋すると、放出制御可能なマトリックスを有するゲルとなることをモデル薬物放出により確認した。
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