研究概要 |
親水性および疎水性セグメントからなる両親媒性高分子は,水中でミセル様の会合体を形成することが知られており, DDS 用キャリヤーとして有望視されている。前年度までに,生分解性のポリリシン-ポリ乳酸・AB ジブロック共重合体 (PLys-b-PLLA) から調製される正電荷を有するミセルを,ポリイオンコンプレックス(PIC)形成によりヒアルロン酸 (HA) で被覆すると,安定性の著しい向上やステルス性の付与などが達成されること,およびガラクトース修飾ヒアルロン酸 (Gal-HA) で被覆することにより,肝実質細胞に対する親和性を付与できることなどを報告した。今年度は,このガラクトース導入PIC被覆ミセルの肝実質細胞に対する親和性を定量的に評価するため,ヒト肝癌細胞HepG2を用いてフローサイトメーターによる取り込み評価を行った。その結果,比較対照群であるグルコース導入HA(Gul-HA)被覆ミセルや,阻害剤添加系と比較して,有意に高い取り込みが観測された。また,被覆するポリアニオンとしてHAを,ポリカチオンとしてポリリシン(PLys)を使用して,PIC被覆を繰り返し行うことにより,多重被覆ミセルの調製を行った。動的光散乱(DLS)およびゼータ電位測定により,被覆するごとに粒径が増大し,ゼータ電位測定においても最外層ポリマーに応じて正および負の値を示したことから,多重被覆が達成されていることを確認した。この多重被覆ミセルを,HA分解酵素であるヒアルロニダーゼおよびPLys分解酵素であるトリプシンで処理したところ,両方の酵素で処理した場合にのみミセルの分解・崩壊が観測され,最外層ポリマーに対応しない酵素では分解が起こらないことが確認された。以上の結果から,この多重PIC被覆ミセルは,複数の酵素の存在下のみで分解する多重刺激応答型DDSキャリヤとして有望であることが示された。
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