研究課題/領域番号 |
22300186
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山田 純生 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80359752)
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研究分担者 |
川部 勤 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20378219)
碓氷 章彦 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30283443)
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キーワード | 心大血管術後 / 異化亢進 / 骨格筋タンパク分解 / 尿中3-methylhistidine |
研究概要 |
本研究は、心臓外科術患者の術後早期における筋タンパク分解(異化亢進)の実態と、その結果として尿中に排泄される骨格筋の筋タンパク分解指標(3-methylhistidine/Creatine;3MH/Cre)ならびに術後筋力変化の関係を明らかにすることを目的とした。 【方法】待機的に心臓外科術を受けた患者37名(男30名、年齢69.5±7.5歳) を対象とした。術後24時間以上の人工呼吸器管理例、再開胸術施行例、術後リハビリテーションプログラム逸脱例、術前からの中枢神経疾患、運動器疾患、呼吸器疾患、肝機能障害、高度の腎機能障害は除外した。検討項目は、術前後の血中Interleukin-6(IL-6)、cortisol、growth hormone (GH)、IGF-1、BCAA、AAA、呼吸筋力、握力、膝伸展筋力とした。また術後の尿中3MHを計測し、各指標との関係を検討した。 【結果】術後にIL-6、cortisolは有意に上昇し(P<0.05)、IGF-1/GH、BCAA/AAAは有意に低下した(P<0.05)。これより術後は異化亢進状態にあることが確認された。呼吸筋力、握力、膝伸展筋力は術後7日目に低下した後(P<0.05)、14日では回復したが、術前値よりは低下していた(P<0.05)。また、各筋力の回復推移は近似していた。尿中3MH/Creは術後4日目まで増え続け、4日目でpeak outした。また、IL-6産生量、筋力と有意な相関を認めた(IL-6:r=0.34、P<0.05、膝進展筋力:r=0.356、P<0.022)。 【まとめ】心臓外科術後の筋力低下には手術侵襲による異化作用が関与しており、術後3-4日間はタンパク分解が進むものと思われた。術直後からの早期リハビリテーションには、術侵襲に対する骨格筋タンパク分解を抑制する介入が必要と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は心大血管術の術侵襲とその後の骨格筋タンパク分解との関係を明らかにすることであった。本研究結果は従来行われている術後早期離床を主としたリハビリテーション介入では、骨格筋タンパク分解ならびに退院時の筋力低下を抑制できないことを示しており、早期からの積極的なリハビリテーション介入の必要性を示すことができた。 また、本研究結果の主要知見である尿中3MHを指標とする骨格筋タンパク分解は、術後4日目でピークを迎え5日目で収束に向かうことが明らかとなった。これは術後4、5日間は手術による異化作用亢進により骨格筋タンパクが分解され続けることを示している。この知見はこれまで世界的にも示されておらず、早期リハビリテーションの介入標的を生理学的レベルで示唆できた点で、極めて新規制、重要性が高い知見である。 また、尿中3MHは退院時の骨格筋筋力とも関連を認めたが、これは術直後の骨格筋タンパク分解が遠隔期の身体機能を決定する一因となることを示唆している。すなわち、術後患者に対するリハビリテーション介入は術直後から行うべきであることを示すことができた点で、術後集中治療室からの新しいリハビリテーション介入を構築する必要性を示すことができた。 以上より、当初研究目的の達成はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で明らかとなった術後の骨格筋タンパク分解を抑制する介入方策として、術直後からの骨格筋への電気刺激(ES)介入を検討する。対象は心大血管外科術後患者とし、名古屋大学医学部付属病院で術翌日より2週間のES介入を行う。まず、ES介入が術翌日から安全に施行可能であるか(実行可能性)を検討するため、心大血管術後の連続症例60-70例を目安として一定の判断基準を作成し、ES介入による安全性の効果判定を行う。次に、尿中3MHを評価指標とし、H23年度研究群を対照群に設定した上で、ES介入群との比較検討を行う。 【ESの実行可能性】心大血管外科術後患者を対象に、手術翌日から、60分/回/日、5日/週の頻度で2週間のES介入を行う。実行可能性の判断基準はES介入時の心拍血圧反応、心房細動の新規発生率、ES拒否などES完遂割合、心不全増悪、とする。 【術後筋タンパク分解に対するES介入効果】ESによる術後筋タンパク分解の抑制効果を非ランダム化比較試験で検討する。後者のES介入は名古屋大学医学部附属病院で行う。対照群、介入群ともに、筋タンパク分解の最終代謝産物である尿中3-メチルヒスチジン(3MH)/クレアチニン(Cre)を術後5日間にわたり連続計測する。 上記、2つの検討により、心大血管術後翌日からのES介入の実行可能性ならびに骨格筋タンパク分解抑制効果を検証する。
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