健常者56名 (20歳~78歳)、脳卒中片麻痺患者43名を対象とし、開眼・閉眼条件に加えて片側下肢へのラバー負荷条件での立位保持反復課題ならびに立位でのストループ課題施行に伴う重心動揺指標の変化を2枚の床反力計を用いて計測した。ラバー負荷によって固有感覚情報を撹乱した環境では、立位保持課題を閉眼条件で反復する過程において、前後・左右方向ともに姿勢制御の活動量を表す総軌跡長が減少したが、圧中心の動揺範囲を反映する実効値には高齢者を含めると有意な変化を認めなかった。一方、閉眼条件における総軌跡長、実効値の初回施行時に対する2試行目以降の改善度は、1試行目におけるRomberg率 (開眼に対する閉眼時の比) と高い相関を示すことから、Romberg率は立位保持課題の反復において補正するべきエラーの程度を反映し、健常者ではこれを修正する適応能力を有することが示唆された。片麻痺患者においても立位保持課題の反復で、総軌跡長の有意な減少を認めたが、1試行目におけるRomberg率と第2試行での改善度が相関した指標は前後方向の実効値のみであり、立位制御においてエラー管理を優先する制御対象の存在が示唆された。本法は、運動療法の治療戦略を決定する上で、姿勢制御のエラー管理能力を簡便に評価できる手段として臨床応用が期待できる。ストループ課題においては、健常者では前後方向の重心動揺範囲が開眼条件よりも減少したのに対して、片麻痺患者では左右方向の重心動揺範囲が増大した。前後方向の動揺における中心周波数は両群ともにストループ課題で増加することから、立位保持のための足関節制御の変化が関与し、片麻痺患者では左右方向の機能的支持基底面の減少が動揺範囲の増大に影響していると考えられた。運動学習理論の観点から片麻痺患者の立位制御における病態解明と運動療法の治療における本法の有用性の検証を継続している。
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