研究課題/領域番号 |
22300191
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長谷 公隆 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (80198704)
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キーワード | リハビリテーション医学 / 運動学習 / 運動療法 / 脳卒中 |
研究概要 |
在宅生活を営む脳卒中片麻痺患者24名(右片麻痺12名)と健常者48名(20~40歳台の24名の若年群、片麻痺患者と年齢を一致させた対照群)について、片側下肢へのラバー負荷条件での立位保持反復課題を検証した結果、1)ラバー負荷によって片側下肢からの固有感覚情報が撹乱されても健常群では課題反復による重心動揺指標に変化はなく、初回の試行において立位制御の適応が達成されていること、2)片麻痺群では立位保持課題の反復によって重心動揺の活動量は逆に増大することから、視覚情報下での姿勢制御の標的は重心動揺量ではないこと、3)閉眼条件では、対照群の重心動揺活動量は前後・左右方向ともに課題反復で減少するのに対し、片麻痺群では左右方向で変化がみられず、非対称的立位制御の特性が明確になること、4)1試行目におけるRomberg率(RQ1)と第2試行以降の重心動揺指標の改善度は各群ともに高い相関を示し、RQ1は立位適応過程で制御すべきエラーを反映するが、片麻痺群の前後方向ではこの相関が確認できないこと、が明らかとなった。これらは立位制御の適応能力を評価するうえでの新たな知見であり、視覚情報の有無による'sensory re-weighing'など、立位制御の条件による制御対象の基準を同定することができた。一方、ストループ課題での色呼称課題と、色と色名が一致しない文字の色を呼称する課題(IS条件)との間に、健常群では、重心動揺軌跡の変位量に差はなかったが、同期して計測したNIRSにおいて、IS条件では左下前頭回部に有意な血流増加を認めた。一方、脳卒中患者では、IS条件で後方への大きな重心動揺が認め、同部の血流は健常者とは逆に減少した。これらの変化は、Stroop効果が立位制御の自動性を干渉する二重課題としての有用性を示唆すると同時に、その検証によって立位制御の神経機構を解明できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
片側下肢からの固有感覚情報の撹乱に対する立位制御過程を反復課題によって評価することで、本研究の第一の命題である立位姿勢制御の代償的適応能力を定量する方法が確立できた。また、二重課題による立位制御の特性を、重心動揺軌跡を平均加算する新たな解析法を考案して、脳血流評価とともに検証し、脳卒中患者の立位制御の特性を新たな側面からとらえることができた。一方、重心動揺の特性を足圧中心指標のみで二次元的に評価するだけでは立位制御の適応過程における重心動揺のパターンを識別することが困難であることが判明したため、3次元解析の導入を進める必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
ラバー負荷によって評価された代償的立位制御の適応能力が、運動療法の効果にどのように関係するかについて回復期病棟において検証を進めている。さらに、急性期病院において運動療法の対象となる関節手術前後の患者等について、3次元解析を同期した重心動揺指標の評価を、関西医科大学附属枚方病院で開始する予定である。また、立位制御の適応におけるプライミング効果を運動療法に適用する有用性を検証するために、経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)の治療効果を、前記指標を用いて検討する予定である。
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