片側下肢人工関節術前の患者26名を対象に、閉眼で患側下肢にラバーを適用した条件での30秒間の立位保持反復課題(3試行)における重心動揺指標を2枚の床反力計を用いて計測し、術後退院時の変化を検証した。閉眼・ラバー負荷での総軌跡長は術前後で変化を認めなかったが、実効値は術後に有意に増大した。立位安定化を指示した反復課題では、術前後ともに第1試行に対して第2、3試行での総軌跡長、実効値が有意に減少した。術前後において、閉眼・ラバー負荷に即時的に適応する能力として算出した第1試行における術前後の実効値の比は、術前の第1施行時に対する3試行目の改善度と有意な相関を示した(P<0.01)。本法によって計測された立位制御の適応能力は、感覚情報の変化に対する術後の立位制御能力を反映することが示唆された。また、脳卒中片麻痺患者40名を対象にストループ課題による立位制御の変化を検討した。右片麻痺では、前後方向の総軌跡長比および平均周波数の比、左右下肢荷重比の変化がBerg balance scoreと有意に相関し、左右方向の実効値比が下肢のFugl-Meyer scoreと有意に相関したが、左片麻痺患者では相関は同定されなかった。右半球障害では垂直性障害などの要因が立位制御の変化に影響すると推察される一方で、右片麻痺患者では、ストループ課題による重心動揺指標の前後方向の変化が動的バランス能力を、左右方向の変化が下肢麻痺の重症度を反映した。バランス能力が良好な右片麻痺患者では、ストループ課題時に麻痺側下肢へ荷重するようになることから、認知課題等を行う日常生活の中で麻痺側下肢による立位制御を反復している患者では、バランス能力が良好となる可能性が今回の研究ではじめて示された。さらに片側小脳病変例に対して経頭蓋直流電気刺激(1mA、10分間)を小脳部に適用し、動的バランス能力が改善する症例を経験した。
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