本研究では、スポーツを教材とする体育でなければなしえない人間形成の意義を再確認するために、児童・生徒の「心と体」の問題が人間的な存在への問いと不可分であるという認識に立って、スポーツ実践における人間の生の経験と体育における人間形成の可能性について検討した。具体的には、スポーツにおける「他者との交流」や「コミュニケーション」によって得られる人間の多様な生の経験を体育という人間形成の営みに取り込むことで、われわれも児童・生徒が直面する「心と体の問題」の解決に向けて貢献できるのだという観点から、「スポーツと人間の生の経験」「スポーツの教育的価値」「体育における人間形成」について考察した。そのため本研究では四年間で明らかにすべき課題を五つ設定したが、それは(1)「心身を一体として捉える」とはどういうことか、(2)「体や心への気付き」とは何か、(3)他者との交流を必然とするスポーツ実践における人間の生の経験とは何か、(4)体育においてスポーツによる人間形成の可能性はあるのか、(5)体育でなければ成しえない人間形成の意義とは何かであった。この前もって設定した五つの研究課題のうち最初の二つ、すなわち(1)「心身を一体として捉える」とはどういうことか、(2)「体や心への気付き」とは何かについて、文献をレビューしながら検討した。その成果の一部を、9月15日から19日までローマ(イタリア共和国)で開かれた第38回国際スポーツ哲学会で発表した。このときの文献のレビューから得られた成果は、一部が論文として掲載された。3月にはスポーツが人間の生の経験に対してどのような意味を持つのかという原理的な問題に関する研究成果について、本研究の研究協力者(海外共同研究者)であるレンク教授のレビューを受けた。
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