研究概要 |
筋収縮に対する筋細胞内のカルシウム恒常性は,筋疲労や筋損傷と関連している.ところが,糖尿病状態での筋収縮と筋細胞内カルシウム恒常性の関係は明らかではない.【目的】平成22年度は,課題1として,糖尿病ラットは正常ラットと比較してアイソメトリック(ISO)とエキセントリック(ECC)に対する細胞内カルシウム濃度[Ca^<2+>i]の蓄積パターンが異なるという仮説を検証した.【方法】実験はラットの骨格筋観察モデルによるin vivoバイオイメージングによって実施した.糖尿病ラット(DIA, streptozotocin, i.p.)と正常ラット(Cont)の脊柱僧帽筋を対象にカルシウムイメージング(Fura-2AM)によって,電気刺激(100Hz)による50回を1セットとする連続的なISOとECCを5分間の間隔をおいて10セット反復した.各セットの筋収縮後に取得した蛍光画像(340/380nm ratio image)の強度変化から[Ca^<2+>i]蓄積動態を経時的に評価した.【結果と考察】Contにおいて,安静時(収縮前)と比較して有意な[Ca^<2+>i]増加はISOでは収縮負荷6セット,ECCでは1セットから観察され,ECCがISOよりも[Ca^<2+>i]蓄積が有意に高かった.DIAのISO条件は1セットから有意な蓄積が生じ,Contよりも蓄積動態が大きかった.一方,ECC条件ではContよりも蓄積が低いことが観察された.細胞内の[Ca^<2+>i]蓄積には筋小胞体とStretch-activated channelsを介した細胞外からの流入が関与していると考えられる.したがって,本研究結果で示された[Ca^<2+>i]蓄積パターンの違いは,糖尿病の骨格筋では細胞外カルシウム流入量や筋小胞体のカルシウム取り込み能力の変化が生じている可能性を示唆している.【結論】糖尿病はISOおよびECCに対する[Ca^<2+>i]蓄積が正常モデルと異なることが明らかになった.以上のような細胞内カルシウムの恒常性の違いは,糖尿病での筋疲労,筋損傷の特徴を考える際に重要であると考えられる.
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