研究課題/領域番号 |
22300221
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
狩野 豊 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (90293133)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 筋細胞 / カルシウムイオン / バイオイメージング |
研究概要 |
糖尿病は様々な代謝疾患を併発する.これには,骨格筋の形態的,機能的な脆弱性が関係しており,筋萎縮やミトコンドリアの機能障害が報告されている.さらに,小胞体やミトコンドリアにおけるカルシウムイオン(Ca2+)放出,取り込みの低下などといった筋細胞内Ca2+恒常性の障害が示唆されている.しかしながら,in vivo環境下において,筋細胞内Ca2+の緩衝能力(Ca2+恒常性機構)に関しての知見は得られていない.24年度では,糖尿病状態の筋細胞は,細胞外から流入するCa2+に対して,細胞内のCa2+放出,緩衝能力が低下しているという仮説を立て,マイクロインジェクションによるCa2+負荷後の筋細胞内Ca2+動態を明らかにした.実験には10~12週齢のWistar系雄性ラットを用い,ストレプトゾトシン誘発による1型糖尿病群(DIA)と正常群(CONT)に区分した.測定項目は形態・組織化学的評価,緩衝能力評価とした.形態・組織化学的評価は,組織化学染色法を用いて,筋横断面積,酸化系能力(SDH:コハク酸脱水素酵素)を測定した.緩衝能力評価は,麻酔下で外科的に露出した脊柱僧帽筋に,Ca2+蛍光指示薬であるFura-2を負荷し,単一筋線維にCa2+溶液をマイクロインジェクションによって注入し,注入前30秒,注入後60秒のCa2+経時変化を画像解析によって評価した.インジェクションによるCa2+の上昇率の最大値から90秒時の相対的な差を緩衝率とした.その結果,DIAは,CONTよりも筋横断面積,SDH活性の有意な低値を示し,糖尿病群の筋の萎縮,酸化系能力の低下が示唆された.また,DIAは,CONTよりもインジェクションによるCa2+の上昇率,緩衝率の有意な低値を示した.以上の結果から,in vivo下の糖尿病骨格筋において,細胞内Ca2+の放出,緩衝能力の低下が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,骨格筋内へカルシウムイオンをマイクロインジェクションし,その消去動態をバイオイメージングによって経時的に観察するモデルを構築することで,糖尿病骨格筋のカルシウム消去経路の特性を明らかにすることを主要な実験とした.その結果,糖尿病状態の骨格筋において,カルシウムインジェクションに対する応答性が異なることを示すことに成功した.特に,糖尿病では,カルシウム誘発性のカルシウム放出が低下すること,そして,蓄積したカルシウムの除去速度が遅延することなどをin vivoモデルで示すことに成功した.したがって,研究は予定通り進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,糖尿病状態でのカルシウムハンドリングが低下する機構の解明を目指す.具体的には,筋小胞体のカルシウム取り込みであるポンプ機能のタンパク発現量とカルシウム放出に関与するリアノジンタンパクを定量することで,機能との関連性を浮き彫りにしたい. さらに,トレーニングモデルによって,どのような運動条件がカルシウムハンドリングという視点から,最適な負荷であるのかについて検討する.細胞質中のカルシウム蓄積はタンパク合成と分解という相反した応答性を示す.したがって,糖尿病モデルにおいて,タンパク質合成経路を刺激する最適なカルシウム蓄積を生じる負荷方法を探る.
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