骨格筋サイズはタンパク質の合成・分解比によって調節されている.インスリンの分泌が極度に低下している1型糖尿病は,糖代謝の恒常性破綻を招くと同時にタンパク質合成を抑制し筋萎縮の合併症を引き起こす.これまで,レジスタンス運動が糖尿病性筋萎縮の抑制に対して有効であるということが明らかになっている.近年,レジスタンス運動に筋血流の制限を伴うことによって,筋肥大シグナルが顕著に亢進し効果的な筋肥大が起きるという現象が注目されている.平成25年度は,筋萎縮の亢進が著しい1型糖尿病ラットモデルを作成し,血流制限を伴った運動が筋肥大シグナルに及ぼす影響を明らかにすることを目的として実験を遂行した. ラットにストレプトゾトシン (45mg/kg) を腹腔内注射し薬理学的投与による1型糖尿病モデルラットを作成した.大腿部にカフを装着して血流制限 (カフ圧力: 80 mmHg) を加え,1分後に前脛骨筋に電気刺激によるアイソメトリック収縮 (低強度:最大発揮張力の50%) を1分間隔で4セット (20,15,15,15回) 負荷した.前脛骨筋を3時間後に摘出し,mTORシグナル経路のリン酸化応答 (mTOR,S6K1,S6) をWestern Blottingにより調べた.その結果,血流制限によって,S6のリン酸化が有意に亢進していることが示された (+317%:p < 0.05).一方,運動条件では,血流制限よりもS6のリン酸化の強い亢進が認められた (+520%:p < 0.01).また,血流制限と運動を組み合わせた負荷条件では,運動条件と比較し,そのリン酸化レベルは同程度であった (+560%:p < 0.01).血流制限は,1型糖尿病モデルにおける筋萎縮の抑制に対して有効な処方となる可能性を示した.一方,運動条件では,健常モデルに与えるほどの血流制限の効果は期待されないことを示唆した.
|