骨格筋においては、メカニカルストレスの受容が筋の障害や病態と密接に関連する一方で、その肥大や再生を維持していくために必須の刺激でもあるという複雑な状況にある。筋力トレーニングの効果や、廃用性筋萎縮または加齢に伴う筋機能の低下(サルコペニア)の根底にある詳細なメカニズムを明らかにすることは、競技力向上あるいは高齢者の自立支援のみならず、また筋疾患の治療のための根幹的課題でもある。近年の筋量維持や肥大シグナルの分子生物学的研究はミオスタチンシグナルを中心として学際的発展を遂げているが、依然としてメカニカルストレスと細胞内シグナルの間には大きなブラックボックスが存在している。我々は基底膜分子の研究に取り組んできたが、主要基底膜分子の一つであるパールカンが欠損した筋では、速筋の肥大と遅筋の増加がみられることを見いだし、パールカンの筋再生調節因子としての関与を明らかにした(2010 Matrix Biology)。これらの結果より、このブラッックボックスの一端は筋を取りまいている基底膜のメカニカルストレスの受容であるとの仮説を設定した。本研究では、増殖因子を含む複数の分子と結合する多機能糖鎖タンパク質パールカンに着目し、パールカンの1)メカニカルストレスの受容機構、と2)ミオスタチン、各種増殖因子シグナルへのパールカンの関与、作用機構解明を目的とした。分担研究者内藤らは、運動の強度および時間が異なる10週間の走トレーニングが、成ラットの足底筋における衛星細胞発現に及ぼす影響を用いて検討した。その結果、衛星細胞の割合は、30H群および90H群が30L、90LおよびCON群と比較して有意に高かった。筋肥大に重要な役割を果たすと考えられている筋衛星細胞の発現は、運動時間よりも強度の影響を受けることが示唆された。より効果的な筋肥大シグナルを誘導するメカニカルストレス条件の提示が可能と考えた。
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