生活習慣病は、栄養素代謝バランスの破綻により生じると言える。生活習慣病発症に関する様々なメカニズムが明らかになってきているが、栄養素代謝の相互連関については未だ理解されていない。本研究は、リン代謝バランスの制御機構とエネルギー代謝の制御機構の相互制御を行う調節機構を同定し、生活習慣病発症のメカニズムを理解することを目的としたものである。本研究の成果は大きくわけて2つに大別される。 1つは、動物モデルを用いたリン代謝と糖・脂質代謝の関連である。健常ラットに低リン食、標準食、あるいは高リン食を18週間投与したところ、高リン食摂取群で有意な内臓脂肪蓄積の低下を認めた。これは、酸素消費量の増大が認められたことから、エネルギー消費量の亢進によるものと考えられた。また、高リン食投与群では耐糖能が良好であり、肝臓での脂肪合成活性や脂肪蓄積量も少ないことが見いだされた。高リン食群ではPTHやFGF23といったリン利尿ホルモンが増加しており、これらが糖・脂質代謝系に作用すると考えられた。 もう1つは、ヒトにおけるリン代謝と糖代謝系の相互作用である。健常者を対象に高GI食、低GI食と高リン食、低リン食を組み合わせた4種類の食事を単回摂取させ、食後の血清リン濃度、血糖値、血清インスリン濃度、血清PTH濃度、さらに血管内皮機能を測定した。その結果、低GI食摂取時に高リン食を摂取するとより血糖値が上昇しやすいなど、ヒトにおける単回負荷試験でも糖代謝とリン代謝の相互作用を見いだすことができた。さらに、高リン負荷による血管内皮機能への影響は高GI食摂取時により大きい差として現れたことから、血清リン濃度と血糖値の両方が上昇する病態が血管機能を低下させる要因となり得ると考えられた。
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