研究課題/領域番号 |
22300244
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
伊藤 雅史 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (80393114)
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研究分担者 |
大野 欽司 名古屋大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (80397455)
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キーワード | 水素 / シグナル伝達 / 酸化ストレス |
研究概要 |
分子状水素は、ヒドロキシラジカルの選択的消去を介して、酸化ストレス関連疾患の発症・進行を抑制するものと考えられている。しかしながら、我々は酸化ストレスが病態に直接関与しない即時型アレルギーの動物・細胞モデルで、水素がシグナル伝達系に作用してアレルギー抑制効果を示すことを報告し、水素効果の新規分子機構としてシグナル伝達の制御を提唱した。本研究では、各種疾患のモデルで、水素がシグナル伝達に及ぼす影響を検討し、シグナル伝達経路における水素の作用点、標的分子を同定するとともに、網羅的発現解析により水素が発現を調節する遺伝子を同定し、分子状水素による健康促進・疾患抑制の詳細な分子機構を解明する。23年度は、(1)RAW264マクロファージ細胞において、水素処理はASK1およびその下流のp38、JNK、IkBαのリン酸化の抑制を介してLPS/IFNγにより惹起されるiNOSの発現およびNOの産生を抑制すること、慢性関節リウマチの動物モデルであるコラーゲン誘発関節炎で水素水の飲用が症状を軽減することを報告した。これにより、水素はLPS受容体またはその直下に存在する分子を標的にする可能性が示唆された。(2)水素水を投与したマウスの肝臓を用いてメタボローム解析および網羅的遺伝子発現解析を行い、水素水の飲用により肝臓で誘導される代謝および遺伝子発現の変化を同定した。(3)22年度に独自に開発した水素処理の濃度・時間を変化させられるシステムを用いて、パーキンソン病の細胞・動物モデルで水素効果が得られる条件の検討を行い、間歇投与でも水素の効果が認められることを確認した。(4)ヒトで水素がシグナル伝達、遺伝子発現に及ぼす影響を検討するため、進行性筋ジストロフィー、ミトコンドリア脳筋症、炎症性筋疾患患者12例に水素水を12週間投与し、血中・尿中マーカーを測定したところ、血中乳酸/ピルビン酸比、空腹時血糖、マトリックスメタロプロテアーゼ3、中性脂肪の血中レベルに変動を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
即時型アレルギーに続き、炎症反応の細胞モデルにおいても、水素はシグナル伝達の抑制を介して効果を示すことを明らかにし、水素の標的部位を絞り込むことができた。動物で、網羅的遺伝子発現解析に加えメタボローム解析を実施し、既にデータを得ている。独自に開発した水素の供給システムを用いることにより、水素の至適投与方法の詳細な検討が可能となった。ヒトで、水素がシグナル伝達、遺伝子発現に及ぼす影響を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)他の疾患の細胞モデルにおいても水素がシグナル伝達を制御するかどうかを検討するとともに、これまでに水素がシグナル伝達を抑制することが確認されている細胞モデルで、標的分子の同定を試みる。 (2)メタボローム解析、網羅的遺伝子発現解析の結果に基づき、水素が代謝・遺伝子発現に及ぼす影響を検討し、水素の標的分子の絞り込みを行う。 (3)水素処理の濃度・時間とともに水素の投与法が水素効果に及ぼす影響をさらに検討し、水素の作用機序の解明を目指す。
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