研究課題/領域番号 |
22300246
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
石井クンツ 昌子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (70432036)
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研究分担者 |
牧野 カツコ お茶の水女子大学, その他部局等, 名誉教授 (70008035)
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キーワード | 父親 / 情報社会 / IT機器利用 / 育児参加 / 夫婦間コミュニケーション / 世代間関係 / 日米比較 / 親族関係 |
研究概要 |
平成23年度の研究目的はアメリカの育児期の父親を対象としたデータを収集し、育児にパソコンや携帯電話などのITテクノロジーがどの程度活用されているのかを把握して、これらの情報形態を使った子育てが父親の夫婦関係、子育て満足度へどのような影響を与えているかを検討し、平成22年度に収集した日本のデータと比較することであった。アメリカの調査では12の大都市圏(ニューヨーク、シカゴ、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、シアトルなど)に居住していて、日本のサンプルと同様に未就学児を持つ25歳~45歳の父親を対象とした。調査票は1500名へ送付され、有効回収率は33.5%であった。日本との比較が目的であったため、日本語版を英訳した調査票を使用した。 本研究で明らかになった主な知見としては、第一に、日米で共通する結果として、IT機器利用が父親の育児参加や子どもとのコミュニケーションを増加させていることである。日本の父親はIT機器を情報検索ツールや子どもとの遊びに使う場合が多いが、親族とのコミュニケーションはあまり多くなく、アメリカの父親は子どもとのIT機器を使ったコミュニケーションが多いほど親族とのコミュニケーションが多いことに差異が認められた。第二に、アメリカにおいても、IT利用時間が長い父親ほど、妻との会話時間が多くなることが示唆された。また、妻とのコミュニケーションが育児に関する夫婦間の調整を促すことも明らかになった。 本研究の意義は、父親の育児参加を促すツールとしてIT機器がどのように活用されているのかを把握することにより、政府が啓発してきた父親の育児参加へ具体的な提言ができること、日米の父親の育児におけるIT利用の類似点・相違点を解明することにより、わが国独自のIT利用と父親の育児参加の関連を把握することができ、より具体的かつ有効な子育て支援への提案が可能であることがあげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初の計画は、平成22年度に育児期の父親のIT利用と家族関係の調査への準備(調査票枠組みの作成、サンプリングの検討、調査票の作成、プレ調査の実施など)を行なうこと、平成23年度には日米における育児期の父親を対象とした質問紙調査を実施すること、平成24年度には総括として報告書を作成することであった。しかし、平成22年度の準備が予想以上に順調に進んだため、日本の父親を対象とする質問紙調査を平成22年度に行うことができた。また、平成22年度には当初の計画にはなかった、頻繁に携帯やPCをプライベートで利用している共働きおよび片働きの父親を対象とした二組のフォーカスグループインタビューを実施することもできた。これらの調査で得た知見は平成23年度のアメリカ調査を進める上で、調査票やサンプリングの改善に大いに役立った。 当該年度は、計画通りに「育児期の父親のIT利用と家族関係」調査をアメリカで実施したが、当初予定していたロスアンゼルス在住の父親のみならず、他の11都市からサンプルを得たことは予想以上の成果であった。当該年度は分析も順調に進み、積極的な研究結果の発信を研究代表者、研究分担者、研究支援者が分担して日本家族社会学会大会、日本家政学会家族関係部会セミナーで行った。また、国際的な発信としては、世界社会学会家族研究部会と家族研究では世界的に最も知名度の高い全米家族関係学会における発表報告があげられる。研究代表者が日本家族社会学会大会ではテーマセッション、全米家族関係学会ではシンポジウムを企画したが、両セッションでは多くの聴衆者から建設的なコメントをいただいた。 以上の順調な進捗状況と成果発信から、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、以下のように研究を推進する。 (1) 日米両国において収集したデータ分析を継続し、論文の執筆と発表を行なう。本研究の結果を共著書として発信することを目的として、出版社へ提出する企画書の検討と作成を行なう。 (2) 平成22年度~24年度の研究成果を報告書としてまとめる。本研究プロジェクトのHPの運営も続行し、研究成果を広く発信する。 (3) 近年、スマートフォンやタブレット端末の普及が急速に進んでいる。総務省の調査によれば、スマートフォンの世帯保有率は2010年末には9.7%であったが、2011年末には29.3%と、一年間で3倍に伸びている。同時期のタブレット端末保有率は7.2%から8.5%と微増ではあるが上昇している。スマートフォンはインターネット接続や映像・音楽の再生、テレビ電話などの多様な機能を備えており、子どもの教育・知育に役立つアプリケーションソフトウェアなどを利用することが可能である。タブレット端末は、スマートフォンと同様の機能を備えつつ、画面が大きく、子どもでもさわって遊ぶといった利用が可能である。このような状況を踏まえると、本研究の当初に注目していた携帯電話・PC利用のみでは、現代のIT機器を介した育児・子育ての様子を把握することは困難になりつつある。この変化を重要視し、次年度には、当該年度の予算の一部を繰り越して、育児期の父親と母親がスマートフォンやタブレット端末などの新しいIT機器をどのように活用しているのかを調査する予定である。これらの新しいデジタル機器を利用した育児や子育てに関する研究は皆無なので、次年度の研究では、日本の未就学児を持つ父親と母親を対象とした2組へ探索的なフォーカスグループインタビュー調査を実施する予定である。インタビュー内容は①自身の利用状況、②子どもの利用、③家族関係への影響、④家族外の人間関係への影響などである。
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