職人の技能は、身体の外に用意する道具や環境の中に知識や情報として配置されており、多くの伝承すべき工夫や知恵を作業環境の中から学び取ることができる。本研究では、こうしたアプローチを「外在主義的な知識観」と称し、技能を可視化することにより、わが国の伝統工芸モノづくりにおける効果的な継承・教育方法を刷新することを目指している。技能の可視化とは、その熟練度を賛美することではなく、作業の段取り、段取りのための準備、仕事環境、道具や材料の配置、作業を効率よく進めるための自作のジグ、模型やモノの配置、安全や失敗の回避のための環境を明確にすることである。 本年度は5年計画の初年度であることから、既存伝承方法の把握と今後の本格事例調査のための事前調査を中心に実施した。文献調査では、60年前に指摘されていた伝承方法の問題は、今日でも同じ問題として(秘密性、勘やコツへの盲目的謳歌、徒弟制の非合理性など)未解決のままであるなど、次年度からの本格調査で確認すべき点を明らかにした。また、漆器の木地づくりや引物木工房の作業環境の取材やさまざまな展示(大型写真から導入する方法、時間軸を展示であらわす方法、実物の体験型展示、材料と道具の関係性の展示方法など)の調査を通して、技能の抽出と可視化の資料を得た。 さらに、海外事例としてスウェーデンの美術学校におけるワークショップにおいて、複数の技術者がチームを組んで作品をつくりあげる場合の、作業環境、多様な資源の生かし方を調査した。その他、研究代表者の授業「家具製作」や「木工具演習」で学生に対し、作業工程のなかで理解を助けた可視化物の効果を調査し、大学内環境における可視化すべき教材の課題を整理した。
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