研究課題/領域番号 |
22300296
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
稲葉 光行 立命館大学, 政策科学部, 教授 (80309096)
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研究分担者 |
細井 浩一 立命館大学, 映像学部, 教授 (00268145)
上村 雅之 立命館大学, 映像学部, 教授 (20388086)
THAWONMAS Ruck 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (50320122)
中村 彰憲 立命館大学, 映像学部, 教授 (70367134)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 状況学習 / 協調学習 / e-Learning / メタバース / 学習科学 / 教育工学 / 異文化理解 |
研究概要 |
本プロジェクトでは、メタバース構築のためのインフラとして現在最も普及している米国リンデンラボ社の「セカンドライフ(Second Life、以下SL)」をプラットホームとして、日本の伝統文化を学習するための仮想3次元空間を構築し、またその仮想空間を用いた文化的知識の共有のための状況学習モデルの構築に取り組んでいる。 これまでに、日本の伝統的な建築物(神社の建物・境内、能舞台、五重塔など)や、着物や型紙を展示するバーチャルミュージアムなどをSL内に構築した。また、仮想的な能舞台での仕舞や、神社でのお清め・お賽銭・おみくじなど、日本の伝統的な習慣に関わる身体動作を、アバターを介して体験できる仕組みを実装した。さらに、神社の境内で絵馬にメッセージを記載し、指定の場所に掲げることができる仕組みも実装した。これらの研究成果は、主にデジタル人文学や文化情報学領域に関する国内外の学会等において発信してきた。 また本プロジェクトでは、協調的な遊び(Co-playing)に基づく学習の可能性に着目し、仮想空間とゲーム的なシナリオの組み合わせによって作り出された状況や文脈の中で、古参者と新参者が共通のゴールに向かって様々なタスクを達成しながら学びを進めるという学習モデルのデザインに取り組んできた。これらの成果は、主にビデオゲーム研究関連の学会等で紹介してきた。 現在は、これまでの実験で得られたログデータを元に、参加者の行動・会話パタンの分析や、仮想環境を用いた異文化理解・言語学習のモデル作りに取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトでは、1)日本文化の学習支援のための仮想3次元環境の構築、2)その仮想空間の特長を活かす状況学習モデルのデザイン、3)デザイン実験アプローチによる学習実践とシステムや学習モデルの改善、という3つの目標を設定している。 1)については、着物や型紙、伝統的な建築物といった有形文化財を仮想空間で展示・鑑賞するための環境を構築した。また、モーションキャプチャ技術を用いて実際の演者の身体動作を記録し、そのデータを元にバーチャル仕舞を仮想空間上に再現した。日本文化に関わる有形・無形文化財を仮想空間上に構築し、またそれらを文化学習に用いることができるレベルで実装したことは、本研究が達成した成果の1つである。 2)については、仮想空間とゲーム的なシナリオの組み合わせによって作り出された状況や文脈の中で、古参者と新参者が共通のゴールに向かって様々なタスクを達成しながら学びを進めるという学習モデルのデザインについて、一定の指針が確立されつつある。 3)については、古参者的存在としての日本の大学生・高校生、新参者的存在としての外国人留学生や外国人研究者などが参加し、ゲーム的なシナリオに従って、SL上に構築された仮想空間内で対話しながら文化について学ぶ学習実践に取り組んできた。これまでの実践では、日本人参加者から外国人参加者に対して日本の文化習慣の知識が伝えられるだけでなく、日本人参加者自身からも、「日本の文化についてより理解が深まった」という感想が毎回寄せられた。つまり、協調的な遊びと状況学習のモデルに基づいたメタバース空間での学びは、伝統的な知識伝達型だけでなく、知識構築型の文化学習を実現する上で有効な媒介的道具となりうる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、既に共同研究を始めているハワイ大学だけでなく、北米やアジア太平洋地区の教育研究機関やNPOなどと協力し、メタバースを用いた多様かつ実践的な日本文化学習や異文化交流の実践に取り組む予定である。そしてそれらの実践の結果を踏まえて、メタバースの特長を生かした文化的知識の共有や異文化理解のための状況学習モデルの精緻化を目指す。今後、継続、あるいは更なる展開を目指す具体的な活動は以下の通りである。 (1)国内外の教育研究機関がメタバース上で展開する、言語や文化に関する教育・学習支援の事例についての情報収集と分析を継続する。 (2)ハワイ州や北米を含む環太平洋地区の教育研究機関と協力し、メタバースを介した日本文化学習や、異文化理解の実践に取り組む。 (3)文化的知識の共有や異文化理解という視点から、メタバースを介した学習・認知活動、学習者同士のコミュニケーション、アバター動作の履歴などを総合的に分析し、メタバースにおける状況学習環境および学習支援モデルの構築に引き続き取り組む。 (4)メタバースに限らず、ジェスチャー・音声による対話デバイス、伝統的な遊具、ビデオゲーム、ネットゲームなど、多様な環境や道具を媒介とした状況学習の可能性に関する検討・分析を継続する。
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