建造物における付着微生物の分布特性を把握するために、長崎県の漆喰壁建造物およびレンガ造建造物の目地材に使用された漆喰、カンボジアの漆喰壁建造物を対象とした現地調査を行った。壁面の凸部など建造物の構造上、水分が付着しやすいと考えられる部分において漆喰の劣化と主に黒色微生物の付着が顕著に見られた。レンガ造建造物の目地材に使用された漆喰の調査では、地衣類を主とした微生物の付着がレンガよりも少ないが、黒色微生物は7調査地中5か所で確認された。 これまでの調査で採取した微生物が付着した漆喰の剥落片をサンプルとして表面および断面のデジタルマイクロスコープ観察と蛍光観察、X線回折分析を行った。蛍光観察から、漆喰内部に穿入した微生物を観察することが可能であったが、より簡易に観察を行うためには漆喰に含まれる物質の蛍光を把握し蛍光フィルターの選定等の工夫が必要である。X線回折結果では付着微生物由来と考えられた物質としてweddelliteが検出され、これは化学的劣化が生じたことを示している。 江戸時代の製作技法で作製した漆喰サンプルを用いた曝露試験の評価を行った。この結果、薬剤処理サンプルは微生物の付着が表面で留まるのに対し、未処理サンプルでは漆喰中の有機質繊維を伝って微生物が漆喰内部に侵入する様子が観察された。すなわち漆喰内部の微生物の侵入を防ぐ点では薬剤処理の有効性が確認できた。 前年度に引き続き、rRNA 遺伝子のITS領域および26/28S D1/D2の塩基配列を決定し、遺跡の微生物の分類・同定を行った。最終的に、ユーロチウム菌綱のケートチリウム目など4綱13目と所属不明の2種類の子嚢菌類、ハラタケ綱のコウヤクタケ目など3目の担子菌類、トレボウクシア藻綱のトレボウクシア目など3目に属する藻類がそれぞれ同定され、着生菌類の全体像が明らかになってきた。
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