研究課題/領域番号 |
22300308
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 准教授 (90324392)
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研究分担者 |
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (10281065)
太田 充恒 独立行政法人産業技術総合研究所, 産業技術総合研究所, 主任研究員 (30356638)
山本 鋼志 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (70183689)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Sr同位体比 / 地球化学図 / 河川堆積物 / 粒径 |
研究概要 |
今年度は,研究実施計画に基づき,主に以下の3点について研究を推進した。 (1) 地質Sr同位体比マッピングに適切な河川堆積物の粒径の確認: 河川堆積物Sr同位体比の粒径別変化,ならびに物理的・化学的風化による変化を,①愛知県豊田市矢作川上流域,②愛媛県松山市重信川流域,③山口県美祢市厚東川流域,の異なる3地質地域の河川堆積物について調べた。化学組成,鉱物組成も含めた考察から,河川堆積物Sr同位体比の最も大きい変動要因は,粒径ではなく,後背地の地質の違いであることを明らかにした。さらに,粒径180μm以下の細粒河川堆積物は,特定の地質や鉱物の濃集に左右されず,流域の平均値を示し,Sr同位体比マッピングの際の有効なツールとなることがわかった。これらの結果は,本研究課題にとって非常に重要な成果である。①②の内容はそれぞれ国際誌へ投稿し,現在査読中,③は受理され,掲載済みである。 (2) 河川堆積物Sr同位体比と動植物Sr同位体比の関係解明: 愛知県豊田市矢作川上流域のイネ,イノシシを対象例とし,土壌・河川堆積物Sr同位体比と動植物Sr同位体比の関係を,バルクSr・交換性Sr分析から調べた。その結果,両者の相関は,土壌・河川堆積物中の構成鉱物に依存し,特に,長石が支配的な土壌・河川堆積物の場合は,バルクSr・交換性SrのSr同位体比いずれも,動植物Sr同位体比を反映していることが明らかになった。研究内容をGoldschmidt2013国際学会で発表した後,国際誌に投稿し,現在査読中である。 (3) 全国地質Sr同位体比マップの充実化: 今年度は,特に複雑な地質を示す中部地域において,高い試料採取密度での河川堆積物Sr同位体分析を行い,全国地質Sr同位体比マップの充実化を図った。四国・紀伊半島地域のSr同位体比マッピングの結果はGeochemical Journal誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,Sr同位体比を用いて遺跡から出土する考古遺物の来歴を判別する手法を確立することをめざしており,まず第1に,研究の基礎データベースとなる全国版地質Sr同位体比マップを完成することを目的としている。マッピングのための試料として選んだ河川堆積物は,粒径180μm以下の細粒分画において,特定の地質や鉱物の濃集に左右されず,流域の平均値を示す,という結果をまず明らかにし,その上で,粒径180μm以下の河川堆積物を用いた全国版地質Sr同位体比マップをこれまでの4年間の研究期間で完成した。この点に関しては,計画通り,順調に研究が進んだといえる。また,第2の目的である,全国版地質Sr同位体比マップを用いて、遺跡に埋葬されている考古遺物を分析し、Sr同位体比が来歴判別に使えるかどうかを明らかにすることに対しては,現在,現生の動植物Sr同位体比と河川堆積物Sr同位体比との相関についての検討が終った状況であり,来年度,考古遺物を用いて来歴判別を実際に行なっていく予定である。考古遺物のSr同位体比測定は大部分終了しており,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでに得られた結果をまとめ,本研究課題の研究総括を行う。昨年度に引き続き,以下の4点について研究を推進していく。 (1) 地質Sr同位体比マッピングに用いる河川堆積物の特徴の理解: 現在査読中の愛知県豊田市矢作川上流域の河川堆積物に関する論文,愛媛県松山市重信川流域の河川堆積物に関する論文の受理をめざす。これまでの研究結果をもとに,地質Sr同位体比マッピングにおける河川堆積物の有効性,位置づけを明確にする。 (2) 河川堆積物中のバルクSrと交換性SrのSr同位体比が示す意味の理解: 愛知県豊田市矢作川上流域のイネ,イノシシのSr同位体比と土壌・河川堆積物のバルクSrと交換性SrのSr同位体比との関係を明らかにした論文の受理をめざす。この内容を日本全国に広げ,全国の河川堆積物のバルクSr・交換性SrのSr同位体比と,全国のイネのSr同位体比(既報)を比較し,河川堆積物中のSr同位体比が動植物のSr同位体比にどのように反映するかを明らかにする。 (3) 全国地質Sr同位体比マップの公表: (2)のバルクSr・交換性SrのSr同位体比とイネのSr同位体比の関係を含めた全国地質Sr同位体比マップの結果を国際誌に投稿する。一方,個々の地域における詳細なSr同位体比マップの結果については,まだ四国・紀伊半島地域しか論文として公表できていないため,その他の地域に関しても順次,論文として公表していく。 (4) 遺跡出土遺物中のSr同位体比から探る来歴判別: (3)で作成した詳細な地質Sr同位体比マップを用い,鎌倉由比ヶ浜地域から出土した人骨のSr同位体比,および四国の蔵本遺跡から出土した動植物遺物のSr同位体比から,それぞれの遺跡出土遺物の来歴判別が可能かどうかを調べ,論文にまとめる。 以上の研究結果をレビュー論文にまとめ,本研究課題の研究総括とする。
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