研究課題/領域番号 |
22300312
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (20311160)
|
研究分担者 |
川野邊 渉 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, センター長 (00169749)
藤松 仁 信州大学, 繊維学部, 教授 (80021179)
本多 貴之 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 客員研究員 (40409462)
|
キーワード | 文化財 / 修復 / ポリビニルアルコール / 酵素 / 白化 |
研究概要 |
平成23年度はポリビニルアルコール(PVA)の劣化メカニズムに関する研究と、絵画上で劣化したPVAの除去方法についても検討した。 PVAの劣化は前年度までの研究によりオゾンランプを用いることにより、現実の劣化に近い状態を再現することを確認しているため、この手法を用いて実際の絵画上での変化や現象の解析を行った。PVAの白化現象は、酸化した塗膜が高湿度下においてマイクロオーダーのシワ・クラックを形成することで生じるが、23年度はこの現象に顔料や他の合成樹脂の存在がどのように影響するかを確認した。その結果、吸湿性の高い顔料(黄土や胡粉など)が存在する場合は白化が生じにくいことが確認され、実際の作品での状況と一致した。また、アクリル樹脂が存在する場合は白化が生じやすいことも明らかになり、過去の修理ではアクリル樹脂が併用されたことが多い点を顧みると、より白化が生じやすい状況だったと考えられる。 また、除去方法についてはPVAのみを特異的に分解する酵素を大阪市立工業研究所から提供頂き、劣化したPVAを分解する能力について検討した。オゾンランプで劣化した試料でも酵素による分子量低下が顕著に確認されたことから、紙本の日本画を作成しそれにPVAを塗布後オゾンランプで劣化させた模擬的な作品を作成した。この作品上に酵素を滴下したところ、絵画表面の顔料を傷めずにPVAを除去できることが確認された。水を与えて除去を試みる従来の方法では、絵画上でPVAが大きく粘るため顔料を巻き取る危険があることから除去は困難とされてきた。しかし、酵素を利用することで、顔料に影響のない範囲で除去することが可能になったためこれについての特許を申請した。来年度以降は酵素の修理現場での適用やそのための生産技術の開発と、劣化したPVAの分子構造の解析を試みる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画当初においては大阪市立工業研究所に保管されているPVA分解酵素の量がきわめて少なく、複数回の実験に耐えないと思われたため、基礎実験を十分に行った上で、酵素の実験を行う予定であった。しかし、予想以上に酵素の保管量があったため、効率的に酵素試験を行うことができ、そのため実験室レベルでの検討が迅速に行うことが可能となった。24年度以降の実際の現場での施工は、この酵素の生産技術の確立がどの程度進捗するかに影響されると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度以降は、酵素の修理現場での適用やそのための生産技術の開発と、劣化したPVAの分子構造の解析を試みる予定である。実際の修理現場での施工は、PVA分解酵素の生産技術の確立がどの程度進捗するかに影響されると考えられる。現在、冷凍保存されていた産生菌からの活性を確認中であるが、この段階後、十分に活性を得られることが必要となってくる。活性の高い菌の採取を現在試みている。 また、PVAの分子構造については、主に本多が担うこととなる。
|