iPS細胞の樹立成功によって、特定の転写因子の細胞内への導入により、分化した体細胞にリプログラムが生じ、幹細胞としての性質を持つようになることが明らかとなった。しかしながら、Oct3/4・Sox2・Klf-4・c-Mycなど核の初期化に重要な転写因子が、どのような核内シグナルを通じて、どのような分子メカニズムで多能性を獲得するかは、まだ十分明らかにされていない。一方、がん治療の新戦略として"がん幹細胞"制御の概念が注目されている。そこで、癌抑制遺伝子p53や核の初期化に必須の転写因子を中心に、クロマチン機能とエピジェネティクスを制御する転写因子複合体ネットワークに重要な分子を網羅的に同定することで、がん幹細胞制御の根底で作用する核内シグナルとクロマチン制御メカニズムに分子生化学的にアプローチし、次世代型シークエンサーによるゲノムワイドのepigenetics・トランスクリプトーム解析と有機的に結びつけることで、癌のエピジェネティック治療創薬における新規標的分子候補の発見と効率的で革新的な疾患iPS技術や新たな治療ターゲットの創薬基盤の開発につなげる。実際に、ChIP-seqとRNAシークエンスを組み合わせて、癌特異的なnon-coding RNAや、iPS特異的なlinc RNAを同定することに成功した。さらに、iPS細胞を用いて、p53クロマチン複合体に含まれる機能的分子群を同定し、現在その機能解析を進めている。
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