EML4-ALK陽性肺がんに対するALK阻害剤による分子標的治療が臨床試験として開始され、その著明な治療効果が確認された。しかしながら一部の症例においてALK阻害剤に対する耐性の出現が報告され、その克服が大きな命題となっている。我々は、日本のEML4-ALK陽性肺がん症例の一人が6ヶ月にわたるALK阻害剤(crizotinib)治療後に突然再発した例を経験し、本症例の薬剤耐性メカニズムの解明を目指した。具体的には、crizotinib治療前と再発後の肺がん細胞からEML4-ALK cDNAをPCR法により増幅し、次世代シークエンサーによる配列比較を行った。その結果、再発時にのみ新たな2種類の付加変異がALKキナーゼドメイン内に生じている事が明らかになり、これら変異はそれぞれCys1156をチロシンへ(C1156Y)、Leu1196をメチオニンへ(L1196M)置換した。EML4-ALK陽性細胞株にcrizotinibを投与すると細胞死が誘導されるが、発現するEML4-ALKがC1156Y変異を有しているとcrizotinibに対して約10倍の耐性が生じ、L1196M変異の場合はさらに高濃度のcrizotinibが必要になった。すなわち両変異共にcrizotinib耐性原因であると考えられた。しかもこれら変異を有するEML4-ALKは、患者治療に用いなかったALK阻害剤に対しても耐性となる事から、我々が発見した二次変異は、広くALK阻害剤の耐性原因となると考えられた。
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