研究概要 |
がん転移は、がんの原発巣、循環系、遠隔転移巣において、がん細胞と微小環境間での細胞接着機構に基づく多様な相互反応を必要とする連続的な過程である。がん細胞の上皮間葉転換(EMT)はE-cadherinの発現低下を伴うが、E-cadherinとともに上皮組織形成に中心的な役割を果たすnectin/Neclファミリーとがん浸潤転移との関連はまだ明らかではない。私どもはnectin/Neclファミリーおよび細胞接着シグナル伝達の鍵を握るRhoファミリーに注目し、遺伝子改変マウスを用いて、がん転移浸潤過程におけるこれらの分子の病態生理的意義を検討している。本年度は、転移性乳がん発症MMTV-PyVTマウスを用いて、nectin-1, nectin-2, nectin-3, Necl-2, Necl-5遺伝子欠損背景の導入を進めた。また、RhoA遺伝子欠損マウスを作成した結果、恒常的なRhoA遺伝子欠損マウスは胎生致死であり、着床後ただちに個体発生を停止することを明らかにした。同時にCre-loxP系による条件的RhoA欠損マウスを作成し、nestin-Cre依存的に中枢神経系においてRhoA遺伝子を欠損したマウスは、両方の後肢が同時に動く顕著な歩行異常を示した。この表現型はRac GAPの一つであるchimerin欠損マウスで報告されている歩行異常と類似していた。さらに、nectinの細胞内アダプター蛋白質であるafadinに注目し、大腸上皮細胞に特異的な条件的afadin欠損マウスを用いて化学発がん実験を行った。その結果、条件的afadin欠損マウスは、野生型マウスと比較して、大腸の化学発がん刺激に対する感受性が亢進しており、炎症およびがん化過程におけるafadinのがん抑制的な病態生理的役割が示唆された。
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