研究概要 |
平成23年度は、平成22年度に同定したp53のシトルリン化部位に対する抗体の作成を行った。計6カ所の候補領域に対して抗体を作成したが、残念ながらいずれの抗体でも内在性のシトルリン化p53は確認できなかった。細胞内レベルに相当する低Ca濃度(10-7M)ではp53はシトルリン化を受けず、細胞外レベルの高Ca濃度(10-3M)でシトルリン化を受けるというinvitroの解析結果も含めると、p53は生理的な条件では細胞内でシトルリン化修飾を受けないことが示唆された。 また700例の解析で血清中p53抗体価と関連を示したHLA領域については、追加サンプルで検証を行ったが、p53の抗体価と関連する量的形質は同定できなかった。今後更に症例数を増やすと共に、担癌状態の患者に絞り込んで解析を進める予定である。 これらの結果を元に、p53以外の生理的な条件でのシトルリン化の基質の探索を行った。その結果、NPM1以外にヒストンH4R3,LaminC R197,R198がシトルリン化修飾を受ける事を明らかとした。さらにこれらの分子のシトルリン化によってクロマチン構造が弛緩し、DNaseによる核の切断が起きやすくなる事を示した。また癌細胞株にてPADI4の遺伝子変異を探索した所、60細胞株中6細胞株でアミノ酸置換を伴う遺伝子変異が認められ、さらに内5細胞株では顕著に酵素活性の低下が認められた。またPADI4ノックアウトマウスの検討によって、胸腺組織においてもγ線照射後ヒストンH4R3のシトルリン化がPADI4依存的に認められ、またノックアウトマウスはアポトーシス抵抗性を示した。 これらの結果より、PADI4が癌抑制遺伝子として機能し、DNAダメージ依存的なアポトーシス制御のメディエーターとして働くことが示された。
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