研究概要 |
我々はベクターとして開発した不活性化Sendai virus粒子(HVJ-E)に多彩な抗腫瘍活性があることを見出した。本研究では、HVJ-Eの抗腫瘍効果のさらなる治療効果増強のため、HVJ-Eに搭載すべき治療分子を検討し、様々な腫瘍モデルを用いてその効果を検証して、転移や再発を抑制できる新たな遺伝子治療法の開発をめざしている。HVJ-Eの抗腫瘍活性の1つは多彩な抗腫瘍免疫の活性化であり、それは樹状細胞の成熟化と癌抗原提示によるCTLの惹起、NK細胞の活性化、および制御性T細胞(RegT)の癌組織での抑制である。その中心的な作用をするサイトカインはType I interferon(IFN), CXCL10, IL-6であることが分かった。しかしCTLの活性化作用は活性化NK細胞から分泌されるIFN-γによっており間接的である。そこでHVJ-Eに種々のサイトカイン遺伝子(GM-CSF, IFN-β, IL-2, IL-12)を封入し、さらに抗腫瘍効果を高めるための治療実験をマウス悪性グリオーマの皮内モデルで行った。IL-2, IL-12の遺伝子を封入したHVJ-Eを腫瘍内に3回投与した群では、腫瘍増殖がほぼ完全に抑制されたが、GM-CSF, IFN-β遺伝子封入群はHVJ-E単独群と比べて有意な腫瘍増殖抑制を示さなかった。IL-2, Il-12遺伝子封入群では腫瘍の完全消失率はそれぞれ70%,30%であった。そこで以降は、IL-2遺伝子封入HVJ-Eを用いたマウスグリオーマ治療実験を行った。グリオーマの脳内接種モデルを作成し、腫瘍形成がみられた時点で1回投与を行った。比較としてIL-2封入レトロウイルスベクターを用いた。IL-2遺伝子封入HVJ-Eの方が有意なマウス生存率の延長を認めた。腫瘍組織での免疫細胞浸潤を調べたところ、HVJ-E群ではレトロウイルスベクター群に比較してCD8^+リンパ球の著明な浸潤を認め、これはRT-PCRでも確認された。IL-2遺伝子はRegTの増殖も促すことが免疫遺伝子治療において問題視されてきたが、HVJ-Eに封入して用いると、レトロウイルスベクター投与群のようなRegTの浸潤増強を認めなかった。次に臨床に近いモデルとして脳内腫瘍を形成後、外科的に切除し残存腫瘍にIL-2遺伝子封入HVJ-Eを投与すると60%のマウスが寛解した。
|