一般にがん細胞は、染色体末端テロメアを安定に維持することにより、無限の分裂能を示す。我々はこれまでに、テロメアの枯渇もしくは構造破綻が制がん効果を発揮することを示してきた。本研究では、テロメア制御因子の制がん分子標的としての妥当性と作用機構を検証しつつ、標的化薬剤を創製・評価し、新たながん治療モデルを構築することを目指す。今年度は昨年度に引き続き、(1)グアニン四重鎖標的化合物でありテロメラーゼ阻害剤でもあるテロメスタチンの制がん効果および(2)テロメア伸長因子タンキラーゼの新たな機能と結合蛋白質に関する検討を進めた。我々はこれまでに、神経膠腫幹細胞およびこれを分化させた非幹がん細胞の比較検討により、神経膠腫幹細胞がテロメスタチンにより高い感受性を示すことを報告してきた。今回、テロメスタチンによるDNA損傷フォーカスのうち、約4分の1がテロメア部位で生じ、残りはテロメア以外のゲノム領域で生じることが明らかとなった。これらのフォーカスの多くは転写依存的に生じた。この結果は、テロメスタチンが遺伝子発現にも直接的な影響を与えることを示唆するものであり、事実、我々は同剤ががん遺伝子c-Mybの発現を低下させ、制がん効果を発揮することを示している。一方、昨年我々が見出した、タンキラーゼ遺伝子のノックダウンによるX線感受性の増強効果は、siRNA耐性タンキラーゼ遺伝子の導入により消失することが確認できた。質量分析により同定したタンキラーゼ結合タンパク質の解析から、タンキラーゼはDNA損傷応答因子群と複合体を形成し、損傷修復に関与している可能性が示唆された。これらの成果は、テロメアおよびタンキラーゼのがん治療標的としての妥当性をさらに支持するものであり、新薬の開発応用および従来のがん化学療法の成績改善につながると期待される。
|