腫瘍組織においては、がん細胞は正常組織とは異なる特徴的な環境で生存し増殖する。この特徴的な増殖環境へのがん細胞の適応メカニズムを解明し、その治療標的化のための基盤研究を行うことにより、これまでにない新しいがん特異的な治療法開発への道を開く。こうした全体構想の中で本研究では、グルコース飢餓がん細胞の標的化を目指し、UPR標的薬剤の作用機序解析、グルコース飢餓におけるUPRの分子機構解析、UPRの制御薬剤探索の研究を行うとともに、それらの成果の応用展開を促進するため、適応メカニズムの治療標的化に向けた高次解析の研究を進めた。昨年度までに、ビグアナイドなどの従来見出してきたUPR阻害剤とは異なるタイプの化合物として見出していたcompound Cについて、さらに作用機序解析を進めた。compound Cは、エネルギー代謝制御因子AMPKや細胞のがん化に関与するSmad経路を阻害することが知られていたが、興味深いことに、compound CのUPR阻害活性は、AMPK阻害活性やSmad阻害活性とは相関せず、新しい生物活性であることが強く示唆された。さらに、39種類のヒトがん細胞に対する細胞毒性パターンを基盤に、versipelostatinやビグアナイドなどの既知のUPR阻害化合物と類似性を示す新たな化合物について、UPR抑制活性の検証実験を進めた。その結果、UPR抑制化合物として、新たに3種類の化合物の同定に成功した。こうした化合物を用いた研究に加え、グルコース飢餓環境下でUPRの起こらない、ミトコンドリアDNA欠損細胞株を用い、in vivoでの適応機構を検討するため、ヌードマウスに移植し生着した細胞の網羅的遺伝子発現解析を行うなどの性状解析を行った。
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