研究概要 |
本研究では、がん細胞におけるエピジェネティクスの可塑性と固定化の機序を明らかにすることを目的とした。樹立したがん幹細胞を用いて、その維持・分化過程に関わるエピゲノム変化を網羅的に解析し分子機構の解明を試みた。さらにその分子基盤を標的とする小分子化合物の同定を試みた。本研究により、がん幹細胞の分化過程は可逆的であり、H3K27メチル化酵素(EZH2)を含むポリコームタンパク複合体2(PRC2複合体)がこの過程で鍵となる役割を演ずることを見出した。実際にsiRNAによるEZH2の阻害や3-Deazaneplanocinの展開化合物は、PRC2の阻害作用を介してがん細胞の可塑性を著しく抑制した。また固形腫瘍の腫瘍内不均一性の形成にはmicroRNA (miRNA)のひとつであるmiR-1275が関与しており、髄鞘形成の際に重要なタンパクであるOligodendrocyte Specific Protein (OSP/CLDN11)の発現を調節していることを明らかにした。miR-1275は、EZH2-H3K27me3を介したエピジェネティック機構により発現が制御されており、こうしたエピゲノムネットワークが腫瘍の組織多様性には関与している。これまでの一連の研究課程から、細胞の周囲環境とエピゲノムリプログラミングを結ぶ機構の解明につながる基盤データ、およびゲノムの部位特異的なエピゲノム修飾のメカニズムの解明につながる基盤データを得ることができた。 (Natsume A. Oncogene 2012、Katsushima K. J. Biol Chem. 2012, Natsume A et al. under revision)。EZH2による遺伝子抑制を阻害する小分子化合物のスクリーニング法を開発し、15,000の化合物ライブラリーにつきスクリーニングを終了した。
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