2010年の5-6月にロシア極東水文気象局研究船「クロモフ号」航海を利用して、海氷融解期のオホーツク海の化学-生物関連パラメータ(水温、塩分、栄養塩、鉄、植物プランクトン色素、酸素同位体など)の海洋観測を行った。この観測によって、海氷融解期の海氷から海洋表層への鉄分の放出過程、放出後の鉄溶解量・沈降除去過程・生物的利用能など鉄の動態に関する情報を収集した。また、海氷の融解が海洋表層の栄養塩動態に与える影響を評価するため、海氷融解水の影響の指標となる酸素同位体や塩分と鉄や栄養塩などの生元素の分布を比較した。さらに、海氷の融解で放出された鉄分などの化学物質が植物プランクトン増殖に与える影響を明らかにするため、2011年2月の砕氷船「そうや」の航海を利用して、南部オホーツク海氷域において船上培養実験を実施した。この船上培養実験では、海氷融解水中の鉄を強力なキレート剤にてマスクした培養系とマスクしない培養系の植物プランクトンの増殖を比較することで、海氷由来の鉄分の利用能を評価した。これらの観測の結果、海氷融解期の植物プランクトンの増殖は、海氷に高濃度で含まれている微量栄養塩である鉄が、海氷融解と共に海洋表層に放出されており、一方主要な栄養塩は海氷下の海水より供給されている事が示唆された。また、植物プランクトンの培養実験の結果、冬季の南部オホーツク海氷域では、既に海氷の融解によって供給されている鉄分を利用して、植物プランクトンが増殖している事が確認された。
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