研究課題/領域番号 |
22310001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
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キーワード | 環オホーツク / 海氷 / 鉄循環 / 植物プランクトン |
研究概要 |
本研究では、海氷に取り込まれた栄養物質が、海氷融解時の植物プランクトン生産にどのような影響を与えるのかを評価することを目的して研究を実施している。砕氷船「そうや」観測で得られたオホーツク海氷の化学分析を行い、海氷に含まれる主要栄養塩および微量栄養物質(鉄)を定量的に評価した。海氷中の主要栄養塩のうちリン酸塩とケイ酸塩は海氷下海水よりも濃度が低く、結氷時あるいは海氷成長時に脱塩に伴い排出されていると考えられた。硝酸塩とアンモニウム塩に関しては、海氷と積雪中で高い濃度が見られ、大気由来の窒素の付加等が考えられた。海氷中の鉄分は粒子態で濃度が高く、海氷内の塩分との相関が見られないことから、陸起源のダストや陸棚上の粒子態鉄が海氷内に取り込まれていると考えられた。海氷が融解する際には、海洋表層の主要栄養塩(特にリン酸塩とケイ酸塩)は希釈されるが、鉄分は付加される傾向にある事が明らかとなった。また本研究によって海氷内に取りこまれている鉄の存在状態は主に粒子態鉄である事が分かってきた。海氷域表層水には高濃度の溶存鉄が観測されており、海氷内の粒子態鉄が何らかの過程を経て表層水中に溶解していると考えられる。海氷内に存在する還元的な環境や光化学反応などによって、粒子態鉄の二価鉄への還元が起り、鉄が溶解している可能性がある。そこで、海氷の融氷水に含まれる二価鉄の測定を試みた。海水中の二価鉄の分析のために、ルミノール化学発光法を応用してインラインの分析計を組み上げた。この装置を、2012年2月に南部オホーツク海氷域で行われた観測航海に持ち込み、現場海域の二価鉄濃度の測定を実施した。その結果、融氷水や融氷水の影響を受けていた表層海水で周囲より有意に高い濃度で二価鉄が検出された。このことから海氷内の鉄は還元作用を受けて表層水に溶解する可能性がある事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた1)海氷融解期のオホーツク海の化学的・物理的特徴、2)海氷融解後の表層水中の生物利用能の把握、3)海氷の融解が親潮域の鉄供給と低次生産に与える影響の評価の3本の研究内容のうち、1)と2)について詳細なデータを集める事ができたから。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに分かってきた上記11.の研究内容1)、2)では海氷融解期の海洋構造や化物質の分布状況と、海洋表層に供給される鉄分の化学的形態が主に粒子であること、またその溶解が還元作用などを通して促進されること、などが明らかになってきた。今後は植物プランクトンの増殖に対する影響を定量的に評価する為に、海氷融解によって供給された鉄の生物利用能や、植物プランクトンの増殖応答、融解水の影響の及ぶ空間的な情報の収集を行う。
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