研究概要 |
本研究は、過去に発生した貧酸素水塊の履歴が直下の堆積物に記録されているものと捉え、堆積物を鉛直方向に化学分析することで、過去の貧酸素水塊の履歴を明らかにすることを目的とする。調査海域は貧酸素水塊が強く発生する東京湾の中でも、建設土砂の採掘によって生じた広大な浚渫窪地が存在する千葉県幕張沖を前年度に引き続き対象とした。本年度は、幕張沖の浚渫窪地および平場において複数回調査船上から堆積物の採取および水中カメラによる海底面の観察を行い、採取した底質コアを鉛直方向に可能な限り細かく裁断し、有機物の段階的酸化分解に強く関与する元素(主にFe, Mn, S)の定量と状態分析を行った。分析手法としては、機器中性子放射化分析(INAA)法、57-Feメスバウアー分光法、X線吸収微細構造(XAFS)法、X線粉末回折法などを用いた。 INAA法によりFe, Mnの元素濃度を求めた結果、夏期に採取した浚渫窪地2地点の底質において、表層でFe, Mnの元素濃度が明らかに小さくなる傾向が見られた。両元素は酸化的であるほど沈殿を生じる傾向が知られており、水質が還元的である夏期に両元素の濃度が表層で小さいという測定結果は妥当なものであるといえる。また、XAFS法によりS(-II)/S(VI)価数別分析を行ったところ、水質の変化は底質中の硫黄には直ちに反映せず、2-3ヶ月程度遅れて酸化還元状態に影響を及ぼすことが示唆された。本年度はさらに、redox-sensitiveな元素としてU, Th, Ceに着目し、それらの元素の鉛直分布を測定した。各元素単独の鉛直分布では変化が見にくくても、酸化的であるほど沈殿を生ずるTh, Ceを分子、還元的であるほど沈殿を生ずるUを分母に取り、Th/U比とCe/U比を求めることにより、鉛直方向の変化が観測できた。
|