研究課題/領域番号 |
22310011
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉村 和久 九州大学, 大学院・理学研究院, 教授 (80112291)
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研究分担者 |
杉原 真司 九州大学, アイソトープ総合センター, 助教 (10253402)
岡本 透 (独)森林総合研究所, 木曽試験地, 主任研究員 (40353627)
山田 努 東北大学, 理学研究科, 助教 (50321972)
松田 博貴 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (80274687)
栗崎 弘輔 九州大学, 大学院・理学研究院, 助教 (70507839)
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キーワード | 鍾乳石 / 古環境情報抽出 / 絶対年代測定(年縞、U-Th法) / 土地利用変化 / 植生変遷 / 酸性雨 / 石筍中微量成分 / 炭酸塩酸素同位体比地質温度計 |
研究概要 |
1)平成24年1月7、8日に九州大学において研究集会を開催した。14名が参加し、13件の講演があった。日本鉱業史研究会の井澤英二会長も出席され情報交換を行った。なお、1件の修士論文および1件の卒業論文となった。 2)ハードおよびソフト面から現有設備の改良を行った顕微蛍光法により、年縞計測のルーチン分析ができるようになった。過去1000年前までの絶対年代測定法としてほぼ確立することができた。 3)調査対象地域は、東北(岩手県および宮城県)、山口県秋吉台、北九州市平尾台、長崎県西海市、沖縄県沖縄本島、宮古島。石垣島、西表島までをカバーすることができた。 4)秋吉台長登銅鉱山の盛衰に関して、紀元前後からの酸性降下物量および植生の変遷を読み取ることができたが、同様の可能性を福岡県平尾台青龍窟の石筍を用いて検討を行った。1000年以上前に森林→草原→森林、および数百年前に草原に植生が変化したことがわかった。 5)秋吉台、西海市に関して、古絵図、古文書からの植生変遷に情報の蓄積を継続した。西海市に関しては、過去400年間のひとと自然の関わり(農業生産増にともなう肥料としての柴、エネルギーとしての薪炭の需要増加もあって森林が草原や畑地に転用)を複数の石筍を使って明らかにできた。 6)^<14>C年代の確定した最古の人骨(約2万年前)が発掘された石垣島竿根田原洞穴から採取した石筍の一つについて検討を行った。1800年頃に森林から草原植生への大きな変化を記録しており、その後も現在まで徐々にバイオマスが減少しC4植物の比率が増加した。この大きな変化は.1771年4月24日に発生した大津波の影響と関係づけられる可能性が高い. 7)昨年度に引き続き、秋吉台の鍾乳石以外に気温の異なる日本国内の鍾乳洞において、滴下水およびその滴下水から生成する鍾乳石を採取し、酸素同位体比測地質温度計用データの蓄積を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本国内全域にわたって現在成長中の鍾乳石を採取し、年縞から絶対年代を明らかにするとともに、微量成分濃度、安定同位体比および古文書からの情報を組み合わせることで、今まで入手が困難であったひとと自然の関わりを順調に明らかにできている。とくに鉱業活動に伴う環境変化は1000年以上前からであり、森林が草原へ転用されるのは江戸期に入ってからという点が、全国でほぼ共通することがわかってきた。震災の関係で放射能関係の研究が福島原子力発電所事故へシフトしており、U-Th法による絶対年代測定が遅れている。また、成果を論文として公表することに関しても少し遅れがあるが、最終年度において勢力的に進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに鍾乳石試料の採取はほぼ終わっており、すでに確立した手法(微量成分、安定同位体比、古文書からの情報を駆使して環境情報を抽出する手法)でそれぞれの地域の試料の分析を進める。なお、滴下水からの情報を鍾乳石から読み取った最も最近の情報とクロスチェックするために、東北や石垣島に関しては、洞窟内の滴下水に関する調査も並行して行う予定である。 次年度最終年度に当たるため、今までの成果を総合的にまとめ、公開講演会や啓蒙書の執筆なども見据えて成果の公表を進める予定である。
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