本研究では、北極チャクチ海でピストンコアを採取し、過去15万年にわたり、有孔虫化石の炭素・酸素同位体比、全有機炭素量、炭酸塩量、砕屑物由来炭酸塩量の変動を復元し、大陸氷床量のダイナミックな変動のタイミングと気候変動との関連性に関する知見を得ることに成功した。過去15万年間にわたり、有機炭素量と炭酸塩量は調和的にして変動しており、これらの変動が、氷期―間氷期と関連した大陸氷床の拡大、縮小のタイミングを記録していることがわかった。炭酸カルシウム量の増大が、カナダ大陸基盤を構成している堆積岩であるアラゴナイトを主成分しており、大陸氷床浸食の増減を記録していた。ノースウインド海嶺への輸送のメカニズムとして、温暖期には北極海西部の高気圧性の表層流、いわゆるボーフォート海流が、継続的に炭酸塩をカナダ多島海からノースウィンド海嶺まで運搬し、寒冷期には、大陸氷床の規模が拡大し、それに伴い海水準が低下した場合、北部ヨーロッパ、シベリア西部、北アメリカ周辺に巨大な氷床が存在して時期には、必ずしも氷床は安定的な状態にあったわけではなく、氷河や強力な氷河流により多量の有機物が、大陸棚の浸食により供給されていた。寒冷期には、ボーフォート海流が低気圧性の循環が弱まることにより弱化し、シベリア、チャクチ陸棚からの有機物量が増加していた。これらの海流の寒冷期―温暖化期の変動パターンは、北半球全体に影響を与える地球軌道スケールの気候変動だけでなく千年スケールの気候変動とも関連していることがわかった。
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