研究概要 |
残留性有機汚染物質(POPs)のうち日本での使用実績がなく、長距離移動性を有するMirexに関し、地理的に東アジアからの汚染を受け易い南西諸島海域を対象として検討し、これまで我国の海洋大気や海水が越境汚染影響を受けていることを解明したが、平成24年度は同海域の海底質や島嶼部の陸上土壌について検討した。さらに実測値に基づき汚染源域を推定し、我国への越境汚染に関し大気化学輸送モデルを用いて得られた計算値と大気採取試料の実測値を比較検討した。 海底質及び陸上土壌の分析の結果、Mirexは海底質について1.5 - 16pg/g(乾重)、陸上土壌では0.37 - 2.3pg/g(乾重)の濃度範囲で検出された。これらの濃度レベルは、既報の欧米諸国の底質・土壌データに比べ低値であったが、本研究の結果から南西諸島海域の底質や陸域土壌も海洋大気、海水、同様に東アジア諸国からの越境汚染を生じていることが明らかとなった。Mirex以外に、DDTs, クロルデン、PCBs, HCHs, HCB等のPOPsも検出された。中国国内にMirex製造工場が存在することが学術誌Chemosphereに報告されている。そこで我国で検出されたMirexの汚染源を中国と仮定し、大気化学輸送モデルによって南西諸島海域の大気中濃度を推定し、実測値と比較した結果、高い濃度を検出した大気採取試料についてモデルによる計算値でも高い濃度の推定値が得られ比較的良く一致したが、モデル計算で低濃度の計算値が得られた試料について、実測値は比較的高い濃度であった。この結果は、モデル計算の際に前提条件として設定した、中国に主たる汚染源があるとする仮説が適切でないことが考えられる。即ち、モデル計算値とモニタリング実測値の相違は中国以外にも東アジア域でMirexが使用され、その汚染影響を我国が受けていることを示唆しているものと考えられる。
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