研究課題/領域番号 |
22310029
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
川邉 みどり 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (80312817)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 沿岸域管理 / 基盤構築 / 資源管理 / 地域共同体 / 持続発展教育 |
研究概要 |
本研究は「地域共同体による資源管理」を核として「共同管理」から「総合的な沿岸域管理」へと段階的に管理形態を発展させるための基盤構築の手法開発を目的とする。平成24年度は、おもに次の3つの課題について研究を実施した。 1. 沿岸域管理における多様な関係者の参加を促す手法の研究 日本で沿岸域管理の基盤を構築する過程で,①漁業の位置づけ,②多様な関係者の参加,③「科学の知」と「漁業の知」の統合の三点は避けて通れない論点である。平成24年度はとくに、沿岸域管理における多様な関係者の参加の基礎となる「情報の共有」を進める手法として、漁業を主題とするサイエンスカフェの実践データを分析し、その意義を考察した。 2. 沿岸資源環境管理の基盤構築におけるケース・メソッドの活用 沿岸地域における資源環境の管理および紛争解決を考えるにあたってケース・メソッド(実際に起きた事例について書かれた文章や準備された視聴覚教材を用いて、参加者が協同的に問題分析、解決策の立案などをおこなう、協同的学習法)は有用な手法であると考える。本研究では、作成もしくはデザインした3つのケース(東京湾、太地町、福島県)について、東京海洋大学学部および大学院の授業をパイロットとして実践し、データを収集した。 3. 協同的な沿岸ガヴァナンスについての実践研究 福島県について、水産物の放射性物質汚染のために沿岸漁業は自粛を続けていることから、漁業を基幹産業とする地域の将来に対する懸念が高まっている。この状況に対して、福島県水産試験場が実施しているモニタリングによる科学的情報を共有し、問題への対処を話し合うことを目的として、地元関係者とともに、サイエンスカフェを2011年11月以降、毎月開催し、データの収集をおこなった。また、参加型ワークショップをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には、文献調査、および、それまでの現地調査で得たデータの整理・分析をおもにおこなった。だが、まだ未着手のデータも多くあり、この分析は今後の課題である。以下、当初の研究目的に照らし合わせて点検する。 1. 文献調査をとおして、「総合的な沿岸域管理」の基盤構築にかかわる「関係者の参加」、および、あらゆる資源環境管理に通底する概念である「ソーシャル・ラーニング」について、その論点と体系をおおむね把握した。ただし、それぞれについての評価の枠組みをつくるためには、事例を評価した複数の研究のメタ分析が必要であり、本研究の先の課題として再考が必要であろう。 2. 「総合的な沿岸域管理」の協同的基盤構築のパイロット実践として、北海道道東部の調査地で参加型ワークショップをおこなった。地域のゆたかな資源環境のアピールを通して観光による地域活性化をめざす団体との協同であり、当該団体は以後、スタディツアーを並行して実施しており、「持続発展教育」の展開や立地型観光への発展が期待される。また、この一環として、行政職員を対象としたグループインタビューをおこなった。 3. 東京湾において、行政、環境教育実践者、博物館学芸員など関係者との協同による参加型アクション・リサーチをめざした連続講講座をおこなった。 4. マレーシアにおいて、沿岸環境の保全につとめる漁民組織の幹部を対象として参加型ワークショップおよびグループインタビューをおこなった。さらに、日本のNGOとの協同により、この漁民組織の活動を支援するネットワークの構築をおこなっている。 5. 東日本大震災、福島第一原発事故が起きたことから、福島県沿岸部を調査地として、水産業関係者との協同によるサイエンスカフェ、および、参加型ワークショップを実践している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 文献調査 沿岸域の持続可能性をもたらすものとして、1992年地球サミット以降、「総合的な沿岸域管理」に大きな期待が寄せられてきた。だが、その実践事例に対して、本来の構想に比してきわめて限定された海岸周辺の空間にとどまっているという批判が近年あり、その評価や原因の分析は今後の課題である。また、近年、とくに海域の生物多様性保全を目的として、関係者の利用調整に重きを置いた「海洋空間計画」が注目を集めている。こうした事情から、文献調査を継続的におこなうことが必要であると考える。 2. 沿岸域管理における多様な関係者の参加を進める手法の実践研究 沿岸域管理の基盤構築に適用可能な手法(例えば、アクション・リサーチ)の実践データの分析を進め、補完調査をおこなう。最終的は、それぞれの手法の適用可能性について比較をおこなう。 3. 沿岸資源環境管理の基盤構築におけるケース・メソッド活用 ケース・メソッドは、大学院などの高等教育、専門家教育で用いられることが多いが、学校に限らず、たとえば、漁業協同組合を含む沿岸域資源環境管理に関わる人々や組織がワークショップなどの会合のような実践的な場でも適用可能な手法であると考え、そうした場での実践を試みたい。 4. 協同的な沿岸ガヴァナンスについての実践研究 協同的な沿岸ガヴァナンスの実現に向け、参加型手法を実践して、その課題と可能性を明らかにしたい。すでにデータを収集している、マレーシア国ペナン州、北海道道東地域、福島県いわき市を対象として想定している。それぞれの地域によって、資源環境の状況、関係者の利用とそれぞれが管理に及ぼしうる影響力(権限)、関係者間の関係が異なっている。それぞれの事例についてのデータを分析し、最終的には比較をおこなう。また、必要に応じて補完調査、先進事例調査をおこなう。
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