研究課題/領域番号 |
22310038
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鹿園 直哉 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (10354961)
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研究分担者 |
赤松 憲 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (70360401)
樋口 真理子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 任期付研究員 (90370460)
村上 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (50291092)
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キーワード | 複雑損傷 / DNA分子構造 / 分子動力学計算 / テラヘルツ分光 / FRET |
研究概要 |
本年度は損傷DNAの分子構造測定のための条件の決定並びに決定された条件を用いて実験・計算を進めるとともにテラヘルツ分光装置開発の高度化を進めた。 1.DNA損傷分子分析実験においては、蛍光分子を脱塩基部位に特異的に結合させ、脱塩基部位の空間分布をFluorescence resonance energy transfer(FRET)により測定する実験手法の開発を試みた。最適な蛍光色素の選定、DNAへの付加反応条件の決定を行い、熱処理によって作製した脱塩基部位の空間分布をFRETによって調べた。その結果、脱塩基部位はDNA上のランダムな位置に生じているということが示され、脱塩基部位の空間分布を調べる手法を確立することができた。本手法を用いることにより、放射線によって生成されるDNA上の脱塩基部位の空間分布が明らかになるため、複雑損傷の難修復性を調べる上で重要な知見を得ることができると期待される。 2.テラヘルツ分光装置開発においては、周波数領域の拡大、ミラー等の光学系の調整などによって装置を高度化した。テラヘルツ分光は分子の骨格伸縮、変角、ねじれなどのマクロな振動を測定可能であるため、装置の高度化は、複雑損傷の分子構造の特徴を明らかにし、難修復性を分子構造から説明しようとする試みの実現につながる。 3.分子動力学計算においては、DNA損傷部分の電子状態を量子化学計算に基づいて決定するとともに、損傷DNAに対し周りに水分子を配置した。単独損傷及び複雑損傷の分子の挙動の計算を行った結果、複雑損傷はDNA分子の揺らぎ及び曲がりを大きくすることが明らかになった。この計算結果は難修復性との関連が強く示唆されるため、今後の研究を進める上で非常に重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑損傷の難修復性を調べるためには、損傷DNAの分子構造を調べる必要があるが、その分子構造を測定するための実験手法及び計算手法は本年度までの研究により確立できた。また、難修復性の重要な指標の一つである複雑損傷の生物影響に関しても多くの知見が蓄積されつつある。研究はおおむね当初の計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は実験及び計算を用い、多角的な観点から複雑損傷の難修復性を明らかにしようと研究を進めてきた。実験及び計算手法の確立がなされたことから、今後はそれらの手法に立脚し、(1)損傷DNAの分子構造の詳細(2)損傷DNAと修復酵素との結合安定性(3)複雑損傷の修復の有無、を調べることにより複雑損傷の難修復性の原因について明らかにしていく。損傷DNAのテラヘルツ分光は非常に挑戦的な課題であるため、期待するような測定ができない可能性は残ってはいるが、当初研究計画で想定していたように分子動力学計算により必要な情報は得ることができると考えている。
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