研究概要 |
今年度は、ダイオキシン類の中でも最も毒性が強く難分解性の2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)の肝臓蓄積量を減少させ、尿中への排泄を促進する甲状腺ホルモンをキー化合物とし、主に(1)TCDDの尿中への排泄への引き金を引く標的分子の同定、(2)尿中排泄されたTCDDの化学型に与える標的分子欠損の影響、(3)リコンビナント蛋白質や培養細胞を用いたin vitro系におけるTCDD代謝の検討と評価系の構築を試みた。まず甲状腺ホルモンの受容体である甲状腺ホルモン受容体(TR)の各サブタイプ欠損マウスを用いて、TCDDの体内動態について検討を行った。その結果、甲状腺ホルモンのTCDD尿中排泄促進作用は、TRα欠損マウスでは野生型と同様に認められたが、TRβ欠損マウスでは全く認められなくなった。またTRβ欠損マウスでは、甲状腺ホルモンを投与しない場合においても、TCDDばく露時の尿中排泄量が野生型に比べて有意に減少していた。さらに尿中排泄されたTCDDの化学型についても検討を行ったところ、TRβ欠損マウスでは代謝物ではなく未代謝物の排泄量が減少していた。これらの結果から、甲状腺ホルモンによるTCDD排泄促進はTRβを介して引き金が引かれており、またその作用はTCDDの代謝の促進ではなく、未変化体のまま排泄を促進する可能性が示唆された。これを反映して、in vitro系においても雄性マウスの肝臓ミクロソーム画分や初代培養肝細胞を用い、甲状腺ホルモンのTCDD代謝への影響について分析を行ったが、未変化体のみが検出され、代謝物は検出限界以下であった。以上より、TCDDの主要な排泄経路は、代謝を受けずに未変化体のまま尿中へ排泄される経路である可能性が示唆された。
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