研究課題/領域番号 |
22310047
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池 道彦 大阪大学, 大学院・工学研究科, 教授 (40222856)
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研究分担者 |
惣田 訓 大阪大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (30322176)
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キーワード | セレン / テルル / レアメタル / バイオボラタリゼーション / 排水 |
研究概要 |
セレンに対する高いバイオボラタリゼーション能力を持つNT-I株のセレン揮発化機構の解明を目指し、トランスポゾン挿入変異を用いてセレン揮発化に関わる遺伝子の同定を試みた。構築したトランスポゾン挿入変異株ライブラリの約30,000株をスクリーニングし、セレン揮発化能低下変異株を5株取得した。5株のうち特にNT-IVM2株においてはmethionyl-tRNA fomyltransferaseをコードする遺伝子fmtが破壊されており、メチル基供与体の合成能の低下により、セレンの揮発化に関与している可能性が考えられた。 NT-I株によるセレン揮発化と硫黄代謝との関連性を検討するために、相同組換えによりCysI、CysK、CysM破壊株、およびCysI/CysK重破壊株を作製、取得した。これらの表現型解析の結果、CysIの破壊は水溶性セレン化物および未知水溶性セレンの一時的な蓄積、および元素態セレン減少速度の低下を、CysKの破壊は亜セレン酸還元速度の上昇を引き起こすことが明らかとなった。これより、硫黄代謝に関わる遺伝子がセレン揮発化に関与することが示唆された。以上より、NT-1株のセレン揮発化にメチル基転移経路や硫黄代謝経路が関与することが示され、NT-I株のセレン気化メカニズムの一端が明らかとなった。 亜テルル酸還元細菌Stentrophomonas maltophiliaTI-1、Ochrobactrum anthropi TI-2、O.anthropi/TI-3の3株について、亜テルル酸を含むTSB培地でそれぞれ培養し、その気相をGC/MSによって分析したところ、いずれの菌株の気相部からもジメチルテルライド及びジメチルジテルライドが検出されたことから、これら3菌株は亜テルル酸からメチル化テルル化合物を生成することにより気化する能力を持つことが明らかとなった。これより、テルルをバイオボラタリゼーションによって回収するための微生物触媒とレて、これら3菌株を使用できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画(1)NT-I株のセレン気化メカニズムや培養特性の検討、(2)セレン以外の有用金属代謝微生物の獲得に対し、セレン気化メカニズムとしてメチル基転移経路や硫黄代謝経路が関与することを明らかにし、また、テルル気化細菌を3株取得し、そのテルル気化特性を明らかにしたことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、高いセレン気化能力を持つNT-I株を活用した排水・廃棄物からのセレン気化・回収リアクターの開発に注力する。まず、フラスコスケールにおいてNT-I株のセレン気化を促進する培地成分を検討し、培地組成の最適化を行う。続いて、ラボスケールリアクターを構築し、運転管理条件(温度、pH、通気量など)の最適化を行う。また、リアクターからの排気を活性炭チューブやアルカリ過酸化水素水を通過させることにより、排気中に含まれるセレンの回収を試みる。これらの検討により構築した最適リアクター構成及び運転条件において、モデル排水に含まれるセレンを気化・回収し、NT-I株の気化回収への適用性を検証する。さらに、金属製錬工場や焼却灰等の実排水・実廃棄物を入手し、これらからのセレン気化・回収が可能であることを実証する。
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