研究概要 |
本研究は単一量子ドットで重要な電子スピン-核スピン間相互作用(超微細相互作用)の制御・応用を目的として,これまでの成果をさらに発展させ,単一量子ドットでの核スピンの全光学的制御を行うことを目標としている.このために今年度は,核スピン分極揺らぎによる電子スピン緩和への影響の詳細と量子ドットの光学異方性を詳細に調査した.また高感度核スピン分極プローブ法として,時間分解カー回転を利用した手法の開発に成功した.この手法を発展させ2次元領域での核スピン検出は平成24年度に行う予定である.これらの3つ成果のうち、2件については既に論文として掲載されており、1つについては投稿準備中である。以下にそれらの結果の要約を記する. 1.核スピン揺らぎによる電子スピン緩和について:たとえ単一量子ドットからの発光を観測していても,多数回のサンプリング測定を行うならば,その測定毎の多数の核スピンの配置には揺らぎが存在する.我々は正の荷電励起子に着目し,その発光円偏光度(DCP)とオーバーハウザーシフト(OHS)の時間発展を測定し,両者の同期した増減を確認した.これらのデータの組を外部磁場強度を変えて測定し、プロットすると,1本の曲線上に乗ることを見出した.その曲線の深さと幅から,核スピン揺らぎによる電子スピンのアンサンブルスピン緩和時間(~1ns)と核スピン揺らぎ(~40mT)を得ることに成功した.これに関しては既に2,3の報告例があるが,全く異なる新たな手法で実測したものであり,そこでは従来の理論からのすれが指摘でき,新たな研究問題を示唆する重要な結果となっている. 2.量子ドットの光学異方性について:ドット形状異方性に由来する電子・正孔間の異方的交換相互作用とドット形成過程で生じる残留歪異方性に由来する価電子帯混合の複合的な効果として発光の偏光依存性が生じることを,実験と理論の両面から明確に示した. 3.カー回転を利用した高感度核スピン分極プローブについて:ノンドープCdTe量子井戸中の希薄な残留電子のスピン分極と、斜め磁場配置おいて形成された数mT域の微小な核磁場の検出に成功した.
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