本研究は単一量子ドット(QD)で重要な電子スピン-核スピン間相互作用の制御・応用を目的として,単一QDでの核スピンの全光学的制御を行うことを目標としている.今年度は,核スピン分極揺らぎによる正孔スピン緩和への影響とQDの歪誘起価電子帯混合(VBM)を詳細に調査するとともに,100%核スピン分極達成を目指した新規光ポンピングおよび制御法開発を行った.定常発光のオーバーハウザーシフト,2色ポンププローブ法とカー回転法による時間分解計測を用いた.これらの成果は学術論文(1件掲載予定),学会講演(10件)として発表した. たとえ単一QDを観測していても,多数回のサンプリング測定を行うならば,測定毎に数万個の核スピン配置は異なり,核磁場揺らぎが生じて電子や正孔スピンを緩和させる.純粋な重い正孔(HH)はx(y)成分を持たないので,スピンのz成分は揺らぎの面内成分と結合せず,緩和は生じない.しかし実際のQDでは,純粋なHHは存在せず,軽い正孔(LH)が混合した状態になる.このため面内スピン成分を持つようになり,揺らぎの面内成分とスピンのz成分の結合が生じ,スピン緩和を引き起こす.即ち核磁場揺らぎによる正孔スピン緩和にはVBMの程度が大きく影響することが分かった.計算と多数の単一量子ドットでのVBMの実測から, InAlAs量子ドットでは電子に比べ10倍のスピン緩和時間(~10 ns)であることを示した.新規光ポンピングおよび制御手法開発については,ます共鳴励起しても発光のオーバーハウザーシフトが観測可能とするために,2カラーポンプ・プローブ法を開発した.次にこれまでの濡れ層励起と異なり,飽和しにくい励起準位への禁制遷移を共鳴励起し,フリップ・プロップ支援禁制遷移を利用する手法により30%以上の高核スピン分極率を達成する見込みを得た.
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