研究概要 |
水素ガスを数%含む1気圧の高温(1000℃程度)雰囲気中(Ar, N2)で,炭素粉末をレーザー蒸発させると,強磁性を示す泡状ナノ炭素粒子が得られる.しかし,炭素粉末には数100ppm 程度のFeが含まれ,このFeが強磁性の起源となる可能性がある.得られた泡状ナノ炭素粒子に含まれるFeの含有量を原子吸光,EELS,X線光電子分光で詳細に調べたが,Fe元素を検出することはできなかった.しかし,He+イオンを用いたラザフォード後方散乱分光法では,数100ppm程度のわずかなFeが検出され,今までの測定で得た飽和磁化の大きさを説明できる程度の量であることがわかった.つまり,泡状ナノ炭素粒子が示す強磁性は,sp2結合した炭素原子ネットワークのジグザグエッジの電子状態に起因するものとは断言できないことになる.そこで,CVD法によりCu箔上へグラフェン膜を作製し,細孔状の欠陥を導入することにより,ジグザグエッジを形成し,磁性を調べる実験を行った.細孔状の欠陥導入は,メチル化メラミン樹脂を溶解したメタノールに超音波振動を与えることによりミスト化し,反応炉に導入する方法で行った.高濃度(1-2%程度)のメチル化メラミン樹脂を溶解したメタノールを用いると,グラフェン膜に細孔状欠陥を作りながら,窒素原子がドープされることを見出し,その細孔領域にジグザグエッジが形成されるものと推定できる.そのような試料の磁気測定を行ったところ,4.2Kにおいて3000G以下の磁場で微弱ではあるが,ヒステリシスと思われる磁気特性が検出された.研究計画では,泡状ナノ炭素粒子をグラフェン膜上に配列させ,磁気応答特性を調べる予定であったが,Fe起因の磁性では本研究の目的から逸脱するものである.炭素磁性を追求する上で,グラフェン膜中に形成された細孔の周りのジグザグエッジの磁性探究は学術的に深い意義を持つ.
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