研究課題/領域番号 |
22310073
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
田中 彰治 分子科学研究所, 分子スケールナノサイエンスセンター, 助教 (20192635)
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キーワード | 分子スケールエレクトロニクス / 単電子トンネル素子 / 単分子デバイス / 量子エレクトロニクス / マイクロ・ナノデバイス / 巨大分子 |
研究概要 |
[1]格子状大形分子の精密構築プロセスの開拓: 開発済みの「T字型三端子分子パーツ群」の各末端部に、「導電/トンネル/静電/絶縁接合ユニットを含む二端子分子パーツ群」を位置選択的に逐次接合するためのプロセスを確立した。それらを用いて、三端子系の「単電荷トランジスタ、ターンスタイル」、さらに四端子系の「単電荷ポンプ」の要素構造を単一分子骨格内に集積化した大型分子(主鎖長~10nm)の合成に成功した。 [2]分子内トンネル接合系の設計仕様の決定: 分子鎖長を広範囲に変化させた一連のオリゴチオフェン系の単一分子伝導度の計測から、その伝導機構の解析を系統的に進めた。昨年度は、長鎖系の単一分子伝導がホッピング機構によるものであることを明らかにした。今年度は、短~中鎖系(5nm以下)において観測される「トンネル伝導領域の温度依存性」について検討を行った。スケーリング理論による解析の結果、この温度依存性が電子-フォノン結合を考慮することにより説明可能なことが分かった。以上で、本研究の基盤となるチオフェン系分子鎖の伝導特性を、短鎖系から長鎖系にわたって明らかにできた。これを土台として、チオフェン系主鎖に、様々な機能部位を導入した効果を、詳細に検討することが可能となった。(阪大・夛田・山田Gとの共同研究) [3]格子状大形分子の基板上への精密実装技術の探索: 大型分子の実装技術の開発のためには、各種SPM法による「基板上に配置した大型単一分子の高分解能観測技術」の確立が前提となる。そのため、パルスジェット法による計測用サンプルの作成法を長らく検討してきたが、その条件最適化は困難なままであった。しかし今回、エレクトロスプレー法を適用したところ、チオフェン288量体(120nm級)といった特大サイズの分子についてまで、容易に良質な計測用サンプルを調製でき、その高分解能STM像を得ることが可能となった。(横浜市大・横山Gとの共同研究)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の合成標的である「非周期的・定序配列性の大型パイ共役分子」の逐次精密合成は、現在でも非現実的とするのが一般的である。その主因は単離精製の困難さである(特に、大型の非対称性合成中間体の精製は至難である)。しかし、当研究室で開発した基本構築ブロックである「被覆型オリゴチオフェン:nT-Si-Dod」は、一般常識を遙かに上回る「可精製性」を、二/三/四端子型巨大分子の逐次合成プロセスにおいて発揮してくれた。よってあとは、体力と時間の問題で、最終目標である単一分子内集積回路までアクセスできるものと想定している。
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今後の研究の推進方策 |
新規巨大分子の開発に傾倒しすぎて、計測系研究グループへの試料分子の供給が、少々おろそかになったことは反省点であり、これを改善する。従来、単一分子計測の研究対象は、おおむね1nm長程度の低分子系で、かつ入手容易なモノに限定されていた。結果、近年初めて出現した「構造や分子量にバラツキの無い機能集積化巨大パイ共役分子」に対応した実験技術は未だ十分には確立されていない(実際、大型分子試料を持て余してしまう計測系研究者は多い)。このままでは、大型分子の精密合成法を確立しても、波及効果は限定的であろう。これを打開するため、「単一分子計測練習用の大型分子試料セット」を、見返りなしで、気合いの入った研究室に広く供与していこうと計画している。「大型分子慣れ」をした若手研究者を新規育成するためである。
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